絵本が電子書籍化されない根本的な理由
コンテンツの質とは、何を意味するのか。佐藤さんはいう。
「従来の紙の絵本づくりでは、子どもの発達や親子のコミュニケーションなどの視点から、判型や手ざわり、微妙な色使いといった細部に工夫を重ねます。
たとえば、赤ちゃんの視野は発達の途上ですが、そういう段階の子に与える絵本は、判型が大きすぎても小さすぎてもいけません。ちょうどよく認識できる大きさを、私たち絵本編集者は考えて作ります。
Getty Images
デジタル化されると、判型という概念がないですし、拡大縮小ができるので、これまでの工夫が吹き飛んでしまう」
佐藤さん自身は紙の絵本を「スキンシップのツール」、「外の世界への窓」と捉える。大人が子どもに読んであげることで共通の時間をもてたり、子どもが自分の周囲とはまったく違うものや考え方を知る「窓」の役割をするのが、絵本のメリットだという。
また、「言葉や感情の獲得の場」や、「擬似体験する場」などの意味合いもある。紙の絵本からの方が享受しやすいものは、確かに多そうだ。
一方で、デジタル化されるメリットもある。
「デジタルコンテンツには、絶版という概念がありません。一度作れば何十年も読者を迎えられるというのが、デジタルの最大の利点です。
また、今までは大人数への読み聞かせに向かなかった絵本作品も、プロジェクター投影してみんなで楽しめる可能性があります」
結局、私たちはどう付き合えばよいのだろうか。
「選ぶことの積み重ねが大切。デジタルにせよ紙にせよ、子どもがコンテンツに出会うのに無視できないのがタイミングです。年齢やその子なりの興味を大人がよく観察し、見たいと思うものを選ぶこと。1つ1つを楽しむこと。それを重ねれば必要なものに出会えるし、垂れ流し視聴も防げます」
適切に使い分ける姿勢も、問われてくる。
2021年現在、出版社が紙の絵本で刊行した作品を、デジタルコンテンツとして楽しめるプラットフォームの出現も見られるようになった。絵本の情報・通販サイトで知られる絵本ナビは昨年10月、国内外の絵本約3万冊を提供するアプリケーション「絵本アプリ」を発表した。
日本の「電子書籍元年」と呼ばれた2010年当時に、大人向け書籍に比べて絵本などの子ども向け読み物は圧倒的に少なかったことや、絵本出版社の配信ともなると皆無に等しかったことを思えば、隔世の感がある。「ほとんどない」のが常識だった絵本のデジタルコンテンツは、「特定の場には見つかる」へと移行しつつあるのかもしれない。
こうしたサービスが一般に認知されていくにつれ、違法読み聞かせ動画をとりまくさまざまなトピックも姿を変えていくのだろうか。