東京で味わえる バラエティ豊かな「中国の地方料理」の世界

高田馬場にある湖南料理店「李厨」の湖南風蒸し魚「剁椒魚頭(ドゥオジャオユィトウ)」


東京における中国の地方料理について造詣が深い人物がいる。中華地方菜研究会を主宰している愛吃(アイチー)さんだ。彼女は、山西省の省都太原の大学に留学中、各地を旅して中国の食文化の奥深さを知った。

帰国後は都内の企業に勤めていたが、2015年「旅するように中華を食べ歩こう」をテーマにする同会を正式にスタートさせた。結成の経緯について愛吃さんはこう語る。

「留学中に出合った料理の思い出が忘れがたく、帰国後、それらの味を懐かしむのと中国語会話の復習も兼ねて、中国の人が営む料理店を食べ歩くようになった。その記録としてブログ執筆を開始したのが2008年。少しずつ読んでくださる方が増え、『私も行ってみたい』というコメントやメッセージをいただいた。

ならば、みんなで行ってみよう。食卓を囲みながら、中国の地方料理に関心のある者同士、交流できる場をつくろうと考え、中国の地方の季節の行事や食材などをテーマに、当会限定のメニューを用意した食事会を始めたのです」

同会の特色ある活動のひとつに、毎年クリスマスに開催する「麺リークリスマス会」がある。

「世界の麺の始まりは中国にあり、中国の麺の故郷は山西にあり」という表現もあるように、山西省は麺を含めた粉食文化が豊かで、その種類は200を超えると言われている。

そこで、東京は東新宿にある山西料理の店「山西亭」で1年に1回、「麺のふるさと」の味をとことん体感しようというものだ。ちなみにこの店のオーナーは、北京の南西に位置する山西省の出身。2015年1月にオープンしたが、この店では山西省の名物料理でもある莜麺栲栳栳(ヨウミェンラオカオカオ)が味わえる。

蜂の巣のような円筒状の小麦粉の皮が蒸籠の中にぎっしり詰め込まれ、これを小皿に取り分け、トマトソースたっぷりのタマゴ炒めか黒酢ソースをかけて食べる料理だが、素朴な美味しさだ。つけダレの黒酢は同省特産の「老陳醋(ラオチェンツゥ)」で、まろやかな甘みがある。

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東新宿にある山西亭の「莜麺栲栳栳(ヨウミェンラオカオカオ)」

愛吃さんは、最近の都内の中華料理事情についてこう話す。

「外食の際、何を食べに行こうかと考えるとき、『今日は中華にする?』から一歩進んで、『四川にする?』『広東かなぁ?』『上海もいいよねぇ?』と地方による中華料理の違いを意識する人が増えているのを実感する。『地方菜』という言葉も、少しずつ耳にする機会も多くなってきている。

日本で暮らす中国の人が増え、店名やメニューに地方の特色が表面化されるようになってきた。彼らの食生活を支える存在であると同時に、現地へ渡航できない現在、中国各地を旅するように楽しめる場として店を訪ねる日本人の利用も増えていると感じる」

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池袋にある西北料理店「火焔山 新疆・味道」の店内には、シルクロード地方の民俗画が飾られている
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文・写真=中村正人

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