「出櫃(カミングアウト)中国LGBTの叫び」 監督が語った世代間の認識格差

留学時代の後輩にレズビアンだとカミングアウトされたことが制作のきっかけと語る監督の房満満さん 撮影/佐藤憲一

昨年12月上旬、都内でドキュメンタリー映画『出櫃(カミングアウト)中国LGBTの叫び』の試写会が開かれ、筆者は監督の房満満(ファン・マンマン)さんに話を聞く機会を得た(前回のコラムはこちら)。

彼女に尋ねてみたいことはたくさんあった。

中国の同性愛者をテーマに撮影を行うことになったきっかけや動機もそうだし、撮影中に露わになった、カメラを向けた人物たち、特に親子の葛藤についてどう感じていたのか。

そのひとりである谷超(グーチャオ)さんは、なぜまず親に「自分の本当の姿を受け入れてほしい」と考えたのだろうか。またもうひとりの安安(アンアン)さんの母親が、何度も口にした「面子」という言葉の意味をどう理解すべきか。

そして、これがいちばんの驚きであり、聞きたかったことだったが、どうしてここまで監督は取材対象者の内面に迫る映像を撮ることができたのか。

以下は、房満満監督へのインタビューからまとめたものだ。

中国のLGBTに対する世代間の認識格差


房監督によると、作品を撮りたいと考えたきっかけは、数年前に日本で知り合った留学時代の後輩から、自分がレズビアンであるとカミングアウトされたことだったという。

「中国人留学生の知り合いに、ふたりの仲のいい女子学生がいました。ひとりはとても美人で、あるとき『彼氏はいるの?』と聞くと、『彼女はいます』と答えたので、ビックリしたのです。

彼女はすでに周囲の友人に自分がレズビアンであることをカミングアウトしていたようでした。その後、ふたりがルームシェアしている大学に近いマンションを訪ねました。彼女たちはいたって普通で、キッチンに並んで立って私に料理をつくってくれました。

私が『このことを親は知っているの?』と尋ねると、先ほどまでにこやかだったふたりの表情から笑顔が消え、『まだなんです』と美人の彼女が答えたのです。彼女の母親は伝統的なタイプの教師で、『そろそろ話さなくてはいけないけれど、母は悲しむだろう。そう思うと、できない』と言うのです。

これは、ドキュメンタリーで追った安安さんのケースと同じでした」

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安安さん(左)とパートナー(右)の住まいを訪ねたシーン (c)テムジン

2018年の夏、房監督は取材のために日本から中国に渡った。まず訪ねたのは広州にあるLGBTボランティア団体「同性恋親友会」の本部だった。ドキュメンタリー作品を撮るための取材対象者を見つけるのは簡単ではないが、同会の代表者は上海のスタッフを紹介してくれた。

その人物は作品にも登場する何鳳蘭(フー・ファンラン)さんだった。彼女には息子からゲイであることをカミングアウトされた経験があった。現在は息子とそのパートナーと一緒に、上海でLGBTをサポートする活動を続けていた。

「彼らと知り合ったことで、中国のLGBTが抱える多くの問題を知ることになりました。何さんは息子さんのカミングアウトをどのように受け入れたのか。中国のLGBTの置かれた社会的な立場や、彼らがどのような生き方をしているのか、有意義な話を聞くことができました」
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文=中村正人

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