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2021.01.20 18:00

中国LGBTの苦悩 親と子の辛苦を描いたドキュメンタリーが訴えるもの

母親の墓参りをする谷超さん。本当はまず母親に話したかったという(c)テムジン

母親の墓参りをする谷超さん。本当はまず母親に話したかったという(c)テムジン

中国東部、長江の河口域に位置する江蘇省のとある地方都市。高速バスを降りたひとりの青年が、母親の墓参りで故郷を訪れるシーンからこの作品は始まる。

26歳の谷超(グーチャオ:仮名26歳)さんの帰省の目的は、父親に自分がゲイであることをカミングアウトすることだった。

数年前にがんで妻を失った父親は、そうとは知らず、親戚と一緒に自宅で彼を待っていた。大皿の家庭料理がいくつも並ぶ食卓を囲み、久しぶりに親子水入らずの会話も弾んだ。

「早く彼女を連れてきなさい」
「(結婚が決まったら)住む家や車も用意してやる」

そう陽気に話す父親に、最初は冗談交じりに応じていた彼は、意を決してこう話す。

「ぼくは女性と結婚するつもりはないんだ」

息子にそう告白された瞬間の、父親の虚空を見つめるような強張った表情をカメラは映し続けた。

しばらくして、映像は一変。翌朝、晴れやかな表情を浮かべた谷超さんが語る。

「父さんには、ぼくのありのままを受け入れてもらいたい」

彼によれば、昨夜、父親は泣いたという。

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父親へのカミングアウトのシーン。谷さんはLGBTを理解してもらうための冊子を手にしている (c)テムジン

2000年代からの中国のLGBT事情


東京ドキュメンタリー映画祭2019で上映され、短編部門グランプリを受賞した『出櫃(カミングアウト)中国LGBTの叫び』は、谷超さんのような中国の同性愛者の日常と苦悩をリアルに伝えたノンフィクション作品だ。

監督は中国出身の房満満(ファン・マンマン)さん。中国伝媒大学日本語学科、早稲田大学ジャーナリズム大学院卒業後、日本の番組制作会社テムジンに入社し、中国の社会問題を中心としたドキュメンタリー作品を撮り続けている。

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監督の房満満さんは1989年中国江蘇省生まれ 撮影/佐藤憲一

タイトルの「出櫃」とは、「櫃」(ふたのある大きな箱)から出ること。これまで隠していた自分の本当の姿をカミングアウトし、堂々と生きることを意味している。

今日、LGBTをめぐる問題は、国際的にみても普遍的なテーマである。この作品を理解するためには、中国のLGBT事情を大まかにでも知っておくことは必要だろう。

筆者はこの方面の専門ではないが、自由闊達だった2000年代の中国現代アートに関心を持ち、取材をしていく過程で、上海のゲイシーンを垣間見ることになった経験から、当時を振り返りつつ、彼らの置かれた状況について整理してみよう。
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文=中村正人

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