そして、伝説の「リーダーシッププリンシプル」を策定
「リーダーシッププリンシプル」も策定した。わたしは、アマゾンのリーダーに求められる信条をまとめる必要があると痛感していた。リーダーとは何か、この信条はリーダーの職にある者だけのものか、すべての従業員のためのものかを話し合い、すべての従業員のための信条とすると決める必要があった。
わたしは、リーダーシッププリンシプルを当時CTO(最高技術責任者)だったリック・ダルゼルとの2人で作成した。Sチームのなかで、この件に人一倍熱心だったのがわたしたちふたりだった。
わたしたちはこの会社が「なぜ特別なのか」をはっきり記す必要があると考えた。そのためにも、ジェフ・ベゾスが実際に話した言葉を多く盛り込むことにした。
リーダーシッププリンシプルは「お客様が第一」から始まり、「結果を示す」で終わる。公開しているので、誰でも読むことができる。
草案はきわめて不十分で、ジェフにたくさん駄目出しをされた。それが良かったのだと思う。何度もやり直して、ようやく永続的な指針が完成した。
数年前に「常に学び、好奇心を忘れない」を追加するなど、この18年でいくつか変更した点はあるが、この方針は時を経ても廃ることはなかった。こうした信条を定めたおかげで、刻々と変わっていく文化に流されずにすんだ。
Sチームの仕事は何よりもまず、この「リーダーシッププリンシプルの徹底」だった。
「1ページで伝える」文化をつくる
われわれの成功の秘訣は、リーダーシッププリンシプルの言葉をそのままあらゆる場面で用いたことだと思う。
リーダーシッププリンシプルは、社内でコミュニケーションをとるときにも、書類を書くときにも使われている。
リーターシッププリンシプルはあらゆるものに通じる。誰かにフィードバックするときどうすればいいか。目標をどう定め、どう達成するか。投資家や顧客にどう話をするか。なんにでも当てはまる。意味があいまいにならないように説明を加えることを一貫して重視したのが功を奏したと思う。
経営幹部が1ページに信条と価値をまとめることができれば、新しく入社した人はそれを読むだけで会社の文化を理解できる。
ウィキペディアのページではないから、それぞれの信条を定義したり、くわしく説明したりする必要はない。そうしたくなるようなら、もともと言いたいことをはっきり表現できていなかったのだ。
口頭、「紙」による伝承を重視する
アマゾンには「紙の文化」がある。会議ではまず黙って書類を読むことから始める。パワーポイントは使わない。だから、リーダーシッププリンシプルを教えるときにも、指針が書かれている書面を渡して読んでもらい、じっくり考えさせる。
それから、それらの信条を読んでどう思うか、どうすれば仕事に活かせると思うかと質問する。
人間は文化を熟成させ、企業は文化を創出する。口頭による伝承はとても重要だ。人が話す言葉には偉大な力がある。
人は時に、パワーポイントや書類や本棚のファイルのなかで創作した人工のものが会社のあり方や人との交流の仕方を決めていると思いがちだ。
こうだったらいいのにと思ったことが本当になり、お互いができるだけそのやり方に近づくことができたなら、きっと成功するだろう。
後編:「師」からジェフ・ベゾスへの教え。「精査されていないデータは必ず間違っている」に続く