Jリーグの視認性への対応はネーム&ナンバーのフォントだけに留まらない。シーズン開始前、Jリーグに所属する全クラブはあらかじめ対戦カードごとにどのユニフォームを着用するかの「ユニフォーム使用計画」を策定するのだが、ここにも対応が求められた。
各クラブはフィールドプレイヤーとGKそれぞれホーム、アウェイ、3rdと3種類のユニフォームを持っており、計6種類のパターンがある。その中から、都度対戦相手と見分けが付く組み合わせをチョイスし、さらには審判も両クラブとの違いが明確になるカラーリングを選択する必要がある。
『Jリーグの統一フォント導入から考える「スポーツxSDGs」』でお伝えした通り、色の識別が難しい色覚特性を持つ人の多くには、一般色覚の人からはコントラストが強く見分けやすいと思われている赤と緑がほぼ同色に見えてしまう。過去には一般色覚をもつ担当者が主観的な判断で良し悪しを決めることもあったというが、今シーズンはシミュレーター等を用いた客観的なデータを基に視聴にストレスがないか、一つ一つの組み合わせを入念にチェックし、全57クラブのユニフォーム使用計画が策定された。
導入元年開幕 反響は?
デザインの検討、カラーの検討、さまざまな課題を乗り越えてついに「オフィシャルネーム&ナンバー導入元年」のJリーグが開幕した。
実際にユニフォームを着用する選手の姿を見たファンからは、当然すべてが肯定的な意見ばかりではないが「統一フォント見やすい」「賛否あった縁取りも効いてる」といったポジティブな反響が、スタジアム観戦派からもデジタル映像観戦派からも多数届いた。関係者の努力が報われた瞬間だろう。
一方で、実際に試合が行われてみて初めて見えた改善点もある。たとえば、背番号とユニフォーム地のコントラストは、デザイン画の時点では良好と判断されても、実際の生地の発色がデータのイメージと異なったがためにコントラスト比が低下、背番号の視認性が落ちてしまったという事象が発生した。同様に、布地の柄パターンやグラデーション、あるいはメッシュ地などの素材によっては、図面データでの視認性と実物が必ずしも一致しないことも分かった。
対戦相手との識別において、イエローのユニフォームと白のユニフォームが平常時はしっかり見分けられても、日の光に反射した時に競り合うシーンでは見分けが付きにくいという状況も起こった。また、色覚特性によっては赤と緑は区別が難しいので避けるという判断をしていたものの、デザイン画ではオレンジと認識していたユニフォームの実際の発色がより赤に近く、結果として緑と非常に見分けが困難になってしまったという例もある。
ナンバーについても、数字単体で見れば問題ないが、7の下にネームが入ることで遠目で見ると2と似たシルエットに見えてしまう、はたまた4と9が見分けにくい等の指摘もあり、改善の余地が見られた。
Jリーグで「J.LEAGUE KICK」を担当するクリエイティブオフィサーの橋場貴宏氏は「まだまだ発展途上」と話しており、来季以降に向けて更なる課題の洗い出しとそれぞれの改善策を講じていく意向だ。ぜひその内容・プロセスも公開し、スポーツにおける視認性向上の取り組みから、日常生活あらゆる場面での多様性の尊重へと広がっていくことを先導していってほしい。「スポーツができること」「スポーツでできること」はまだまだ社会に街中にあふれているはずだ。
中澤薫◎ITベンチャーでのBtoB営業やPR等を経て、ニューヨーク大学大学院へフルブライト奨学生として国費留学(スポーツビジネス修士)。NYのスポーツマーケティングコンサルファームで経験を積み、帰国後はプロリーグや非営利団体等複数のスポーツ組織において主にマーケティング業に従事する傍ら、フリーライターとしても活動。