デザインの検討と平行して行われたのが徹底的な視認性テストだ。NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)監修のもと、候補となる数種類のデザインをプリントしたシャツを着用したスタッフが実際にグラウンドで走ったり体操したり、あるいはコーナーキック等のセットプレーを想定した場面で競り合う等の動きを、グラウンドレベルだけでなく中継時の複数カメラアングルから確認して背番号の視認性を検証した。
雨に濡れたり汗をかいた時の色の変化まで細かく評価項目を設け、UEFAが掲げる指標である「50m離れても確認できる」をひとつの目安にしながら、最も読み間違えやすいとされる17番と38番を中心に厳しいチェックが行われた。
また、実際のスタジアムでは検証しきれなかった日照条件の違いや逆光およびナイターでのシミュレーション等はCGを用いた検証が行われた。こうした様々な視認性テストを経て、最終的なデザインが決定された。
カラーの検討 5色を選定
デザインが決まったら、次は「J.LEAGUE KICK」の背番号がしっかりとユニフォーム上で視認できるカラーの検討だ。CUDOの助言をもとに協議の結果、背景色とのコントラストが出やすく、かつこれまでリーグのユニフォームで頻繁に使用されている<黒・白・赤・青・黄>の5色でデビューシーズンはスタートすることが決定した。
ちなみに赤も彩度によっては黒と似て見えるため、あらゆる赤系色の中から黒との見分けが付く赤で、なおかつ特定のクラブのチームカラーに寄らない中間色と言う条件をクリアする特別な赤を検出した。
そして各クラブのユニフォーム上ではこの5色のうちどの色が適合するかをすべて検証し、クラブに推奨色を提示。実際のユニフォームデザインをリーグに提出する際には、カラー・コントラスト・アナライザーというアプリを用いて、生地色とネーム&ナンバーの色がコントラスト比3:1以上になるよう義務付けた。
また、青い数字には白の縁取りといったように、背番号カラーと明度差の大きい縁取りを付けることで、さらに視認性を向上させるよう努めた。
難航したクラブとの調整 ファンからも批判
リーグ統一フォントの導入をクラブに伝えた当初、ネーム&ナンバーの視認性を高めることの重要性については理解を得つつも、やはりクラブのアイデンティティでもあるフォントをいわば強制的にリーグで統一することには少なからず抵抗があった。
クラブ設立時からずっと同じフォントをこだわって使っていたクラブや、リブランディングに高額の費用をかけたクラブもあった。抵抗を覚えたのはファンも同様で、ネット上にはクラブを愛するが故のネガティブな声やリーグへの批判があふれた。
リーグの担当者も、クラブの歴史を奪ってしまうことにもなるのを重々理解しており、そこには深い葛藤があったという。しかしながら、Jリーグが目指すビジョンの実現に必要な改革であると、各クラブとの丁寧なコミュニケーションを重ね、協力を仰いだ。
また、クラブのユニフォームには無地だけではなく、柄やパターンが入っているものなど様々あり、1つ1つの細かい問合せに対応して検討を重ね、クラブの意志を尊重しながら視認性に問題が生じないよう最大限考慮した。こうした地道な積み重ねの上に、ようやく全クラブのフォントカラーが決定した。