ディアデック氏は、元プロスケーターであると同時に、若い頃から非常に活動的なシリアルアントレプレナー(アパレル・シューズブランド、レコードレーベル、リアリティー番組スター、テレビホスト、プロスポーツリーグ)でもある。
スケートボードの腕前は素人と一線を画すものの、決してトッププロスケーターというわけではなかった。様々なインタビューでディアデック氏は「若い頃から、自分をスケートボーダーではなく、“ビジネス”や“ブランド”として捉えるように意識していた」と答えている。そうしたマインドセットがプロスケーター以降のキャリアの成功に大きく貢献している。
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氏のキャリアで一貫しているのは「自分がどのように見られているのか」を意識していることであるといえる。加えて、特にキャリア後半においては、「ビジネス的判断」が顕著に見て取れる。
「Ridiculousness」の低コスト高回転モデルは「着想当初からのコンセプトであった」と各所のインタビューで語っている。YouTube人気の爆発にも後押しされる形で、今年で22シーズン目を迎える人気長寿番組だ。
SLSの構想においては、「スケートボードのNBAやMLB」を作ることを意識し、新興スポーツの中でも急成長を遂げている米総合格闘技UFC(Ultimate Fighting Championship)などを参考にしたという。
ルールについても、既存のスケートボード大会とは違い、盛り上がりを生むための研究を経て制定している。大会によっては、走行中に1回でも技を失敗してボードから落ちてしまうと高得点が出にくく、早い段階で勝敗が見えてしまうことがあるのに対して、SLSは最後の最後で1つの大技による逆転が可能なように設計されており、終わりまで目を離せない展開が多い。そうした特徴も手伝ってか、オリンピックの正式ルールにも採用されるにいたった。
事業計画の作成を、南カリフォルニア大学のビジネススクールに通う友人ブライアン・アトラス氏に依頼したところも注目に値する。ディアデック氏も、2021年に自身のポッドキャストのゲストにアトラス氏を迎えた回で、「振り返るとあの事業計画のクオリティと完成度が高い。創設から10年経った今でもそれに沿って実行しているだけだ」と述べている。
日本の新興スポーツリーグに向けて
認知・人気・収益向上を目指す「新興スポーツリーグの観点」から、このSLSとディアデック氏のキャリアステップを見ると、なお興味深い。
新リーグの立ち上げ・拡大で意識しなければならないポイントとして、もちろんその競技での経験や知見は重要なことであるが、加えて「客観的なビジネス視点」が不可欠となってくる。
日本でも近年、バスケットボール、ラグビー、ハンドボール、卓球、eスポーツなどでプロリーグが誕生しており、今後もさまざまな競技でしばらくこの傾向は続くだろう。こうしたスポーツリーグの立ち上げ、成長を目指す際の参考となるに違いない。
久米翔二郎◎トランスインサイト株式会社 Chief Hustle Officer/マネージャー。1990年愛知県生まれ。東京大学法学部卒、日系戦略コンサルティングファームの北米オフィス代表(NY)を経て、現職。格闘技/X Sports/音楽/映画/NY/Hustle
連載:日米スポーツビジネス最前線