世界のエネルギー転換は過去10年間で多くの節目を迎え、大部分で期待を上回る成果を上げています。技術イノベーションや起業家精神、政策立案者と企業のリスクテイクのおかげで、2010年以降、設備能力は太陽光発電で7倍に、陸上風力発電で3倍に増加しました。
かつては夢物語だと考えられていた再生可能エネルギーも、一部の国では発電構成に占める割合が化石燃料を上回っています。また、この10年間で、近代的なエネルギーにアクセスできない人の数は大幅に減少しました。
それでも、まだ長い道のりが先に待っています。2019年の時点で、世界の一次エネルギー供給の81%は依然として化石燃料に頼っています。また、発電構成に占める石炭の割合が着実に減少しているにもかかわらず、石炭を用いた発電量は、エネルギー需要が増大している地域を中心に絶対量でみると増加しています。
2021年世界経済フォーラムエネルギー転換指数における10年間のベンチマークデータ分析によると、分析対象の115カ国のうち、エネルギー転換に向けて安定的に上昇軌道を描いている国はわずか10%でした。大半の国で何らかの前進がみられるものの、それを持続させることが困難だったのです。
誓約やコミットメントが具体的な行動に移されることが期待される「実現と行動の10年」に向けて一貫して前進を続けることが、タイムリーで効果的なエネルギー転換にとって最も重要になります。また、スピードや方向性とともに、エネルギー転換のレジリエンス(適応、回復できる力)にも重点を置かなくてはなりません。レジリエンスを高めることで後退する事態を防ぎ、混乱が生じた場合でもそのプロセスの早期回復が可能になります。
エネルギー転換をリードしている10カ国(イメージ: World Economic Forum’s Energy Transition Index 2021)
世界的なエネルギー転換が進むにつれ、転換に伴うリスクの状況も急速に変化していきます。前進を積み重ね、これを加速させていけるかどうかは、技術進歩を継続させるだけでなく、エネルギー転換の社会経済的および地政学的な結果に対処することにもかかっています。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)からの復興に向けた取り組みは、この点に関して5つの重要なポイントを示唆していると同時に、苦労して実現した前進を阻害しかねない幾つかの盲点も明らかにしています。
1. エネルギーは依然として経済成長と強く結びついている
この相反する関係に対処することが、エネルギー転換の核心となります。新型コロナウイルス感染拡大による経済的ダメージを軽減するための復興に向けた取り組みは、グリーン化の大きな起爆剤になるものと期待されていました。
ロックダウンを受けて歴史的減少をみせた排出量は、多くの国でまたたく間にパンデミック前の水準に戻りました。また、エネルギー転換の関連セクターに数兆ドルが確約され、効果的な資金注入が行われていますが、ほとんどの国ではその大半が炭素集約型セクターに割り当てられており、今後数年間は排出量が変動しない可能性があります。グリーンで未来対応のインフラへの投資は、さらなる経済成長と雇用創出を促す強い原動力になります。