そして従来からのフェラーリファンを楽しませてくれる部分がV8エンジンだ。ハイブリッドなどの電子機器を装着しない単独の内燃機関としては「最後になるのではないか」と噂されるこの3.9リッターV型8気筒ツインターボエンジンは、最高出力がポルトフィーノの600psから620psへと向上された。「マネッティーノ」と呼ばれる走行モード選択スイッチも、従来の「Comfort」や「Sport」などに加え、パフォーマンスをさらにダイレクトに味わえる「Race」ポジションが導入されている。
低回転域はトルクフルで力強く、余裕の走りを備えているが、回転を上げていけば、明確なワイルドさも味わえる。今回は一般道での試乗にとどまったが、サーキットに出て真価を発揮すれば、ワイルドなんてもんじゃない、恐ろしいほど洗練された獰猛さが味わえるに違いない。フェラーリ最大の魅力に挙げる人も多く、エンジンのパワフルさを際立たせる羅針盤的役割も担っているエンジンサウンドについては、ターボでありながら、高回転域ではまるでNA(自然吸気)エンジンのような甲高い系のサウンドを聞かせてくれる。
日常使用も高いレベルでこなし、長距離運転も快適、スーパーカーらしいハイパフォーマンスもイージーに発揮できる。そしてなによりスパイダー(オープンカー)としても光と風を十分に味わえる。あらゆる消費者の欲望をダイナミックに包括するモデルでありながら、人を惹きつけ、単調なクルマに見えないのは間違いなく「フェラーリ」というブランドによるところが大きい。「跳ね馬」の激しさをコントロールし、デザインで包み込むアプローチが現代フェラーリの売れる文法だ。同ブランドの手練れた仕事っぷりがうかがえ、羨望の眼差しを向けられる華麗なるカーライフが手に入るのであれば、2000万円台後半のプライスは決して高くないのではないだろうか。