谷本:なぜ、アート・サイエンス・テクノロジーの融合が大切だと感じているのでしょうか?
シラウキ:実はこの考えは今に始まったものではなく、たとえば、1960年代後半には「Experiments in Art and Technology(E.A.T)」という、アートとテクノロジーの実験というプロジェクトが企画され、日本人アーティストの中谷芙二子さんもそのメンバーの一人として参加していました。つまり、アートと科学の融合によって新しいプロジェクトを生み出す実験的試行に挑戦していたわけです。
その他にも、ピカソはアインシュタインの相対性理論に大きな影響を受けて創作活動をしていたと言われています。現代社会では、そうしたアート・サイエンス・テクノロジーという三つの融合が、経済的な貢献を含めて、世界的にも大きな影響を与えているのではないかと思います。
グッゲンハイム美術館
谷本:コロナ禍以降の社会とアートシンキングの関連については、どうお考えですか?
シラウキ:部分的な変化だったり、世界的な変化であったり、さまざまな変化があると思いますが、ここでは特にコロナ禍が私たち一人一人に与えた影響について考える必要があると思っています。最も重要な変化の一つは、生活や社会、さらに世界における重要度を改めて考え直する時期が来ているということではないでしょうか。
コロナ禍がもたらした変化や新しい生き方は、経済、環境問題、各国の協力体制といった問題を含めて、一人一人にそれぞれのトランスフォーメーションを起こしてしまったわけです。人生にとって大切なこと、生きる上での価値観や幸福について改めて考える機会を私たちにもたらしたわけですが、この変化を一過性のものとせず、自分にとって本当に重要で大切なものは何なのかということを自覚し、継続的に考えていく必要があるのではないかと思います。
アートシンキング、デザインシンキングについては、これまでそういった考え方が見られなかったような地域でも散見されるようになり、創造的なエネルギーがあちこちにあふれ始めています。アートシンキングとは「多様性(未知)を受け入れる能力」「それに対応するオープンな感性」を通して、これまでになかった物の見方を見出し、チャレンジする精神を養うことです。
自分とは違った人々との会話を通して、共に学んでいくのは大事なことです。現在は、アーティストやデザイナーの表面的な部分だけをコピーしようという人がとても多いようですが、本当に大切なことは実際に協力して共通の知識や体験を通して学んでいく姿勢なのでないかと思います。
おそらくこれからは、個人ではなく集団での作業が重要になってくるでしょう。何故なら、未来がどうなって行くのか、これから先どういった未来を作って行くかという課題は、誰か一人、あるいは何か一つの考え方や未来像で留まるものではないからです。たとえば、アーティストにとって必要なのは、ただ単にアート作品を作るのではなく、そのプロセスにも注意をおくべきだと思っています。
これからの物づくり(創造・創作)は個人ではなく、集団としての共同作業が大切になり、たとえば、日本やスペインといった特定の国だけではなく、国境を越えてどの国も巻き込んだ「集団作業」が大事になってくるような気がしています。ですから、未来を考える上では、よりインクルーシブな対話の場を設けていく必要があります。また、特定の人物や集団の決定ではなく、さまざまな世代の人々と長い時間を費やして構築し、その過程から生まれる多様性が求められる時代が来ているのだと思っています。