谷本:今の時代を語る上で必要な「テクノロジー」とアートの関係についてはどのようにお考えですか?
シラウキ:実は、テクノロジーは、何かを遂行する目的のためだけに存在しているのではなく、未知の領域に挑戦し、その答えを探し求めるという役割を持っているのではないかと思っています。
そして、アートも科学やテクノロジーと同様、ただ単に目先の利益に捉われず、人類にポジティブな影響を与えるような未知の探求を通して、重要、かつ、必要な価値観を生み出そうとする共有理念を持ち合わせていると思います。
たとえば、エンジニアが新しい土地や場所を理解する上で、人類学者、歴史学者、アーティストなど、全くフィールドの違う人々と共同作業を行うことで、新しい問題解決策が生まれてくることもあるわけです。今、私たちが生きている世界は、環境問題、限りある天然資源などの問題が山積していて、その解決策を探す時間の余裕がなくなってきている。だからこそ、アートを含めて異なった分野の人たちが必要不可欠な共同開拓をしていくようなプラットフォームを作り、その活動をサポートしていく必要があると考えているんです。
私たち人類の未知への探究、達成感、感動は、自ら沸き起こる探求心や好奇心から生まれて来るものであって、どんなにテクノロジーが進んでも、そのテクノロジーが私たちに幸せをもたらしてくれるわけではないと思います。つまり、私たちが幸せに生きることができるよう、一人一人が責任を取ることを忘れてはならないのです。
そういった意味でも、私たち人間は、愛、欲求、人々との繋がりや、生き物としての在り方などについて、改めて考え直す必要があるのではないでしょうか。アートは、「私たちは誰なのか」「どういう存在なのか」ということを探求し、認識させてくれる大切なツール(媒体)の一つなのです。
谷本:シラウキさんは、欧州委員会がリードしているSTARTS(Science, Technology & the Arts)に関わっていらっしゃいますね。
シラウキ:STARTSの重要な役割の一つはアート・サイエンス・テクノロジーの融合と促進ですが、たとえば、自社のテクノロジーを有効活用していない企業や、新規テクノロジーを見出せずに課題を抱えている企業などに対する支援活動も行っています。社会におけるイノベーションを加速させることや、アーティストの社会における新しい役割を生み出すこと、そしてアート・サイエンス・テクノロジーの社会におけるバランスに寄与することも大きな役割の一つです。
また、アートの面で言えば、美術館やギャラリーでの作品展示といった狭い世界にとどまらず、テクノロジーや科学者と共同でプロジェクトを立ち上げていくことで活動の枠を広げていくことも可能となるわけです。
STARTS自体は確かに欧州委員会がリードしていますが、特にヨーロッパだけを限定としているわけではなく、国籍や地理的な境界を超え、共通の目的を達成するためにさまざまなプロジェクトを展開しています。