4月24日発売のForbes JAPAN6月号では「新しい働き方・組織」論を特集。ビジネスとは異なる分野の専門家たちの取り組みや哲学から見えてくる、新しい時代の組織や働き方とは──。
スペインのビルバオ・グッゲンハイム美術館でキュレーターを務めるマヌエル・シラウキ氏に聞いた。
谷本有香(以下、谷本):その独創的なフォルムで世界中の人たちを魅了する、ビルバオ・グッゲンハイム美術館。特徴は?
マヌエル・シラウキ(以下、シラウキ):美術館の存在は、ビルバオという地域を変革させるきっかけとなった役割を担っているということから、立ち上げ当時から世界的に認知されています。さらに、地域経済や文化の発展、そして、ビルバオという街のアイデンティティに変化をもたらしただけではなく、美術館のあり方に対して画期的な提案をしたという点で、さまざまな貢献をしていると自負しています。
その特別な存在は、1997年当時から今まで脈々と続いていて、ひとえに地域の歴史、文化、地理的な背景を理解した上で美術館を作り上げるという姿勢に由来しているのではないかと考えています。また、この美術館が他と一線を画している点がダイバーシティの観念で、私はそれがユニークな美術館づくりの最低条件になってくるのではないかと考えています。
スペイン ビルバオ グッゲンハイム美術館
MoMA(ニューヨーク)やポンピードゥー(パリ)といった世界的に有名な美術館は他にもたくさんあります。ですが、彼らと同じことをするのではなく、独自のユニークさを構築して行くことが大切で、私たちはニューヨーク、ベニスのグッゲンハイム美術館の持続と発展を考え、日々活動を続けています。
谷本:このところ、ビジネスの世界でもアートに「解」を求めるような機会が増えています。技術革新が急速に進み、日進月歩を遂げる現代社会の中で、アートが果たす役割は何だと思いますか?
シラウキ:昨今、急速に変化や進化をしている社会の中で、私たちは今まさに、その変化の瞬間を目撃している証人ではないかと思います。特に、アーティストは自らの活動を通し、想像力と独創性を駆使して社会に変化をもたらすという大きな役割を持っているのではないでしょうか。
たとえば、最近ではディスラプティブシフト、つまり、予期せぬ変化が起きている中で、アートの創造性をどのように活かして社会の新しい問題を解決していくか、新しいことに取り組んでいくか、という思考法が非常に大切になってきていると思います。
アートは「物事の考え方」「思考方法」「心の在り方」など、目に見えない抽象的な「頭」や「心」の移り行きを反映する手段だと思います。特に普通の人々が短期的、もしくは、中期的な目で物事を捉えるなか、アーティストは作品を作る過程で常に先進的、かつ、長期的な観点で事象を捉える傾向があると思います。