ワクチン接種進む英国「スポーツ観戦」でも規制緩和、財政支援も


──デジタル領域でのファンエンゲージメント手段として、多くのスポーツ組織がeスポーツに注目しています。英国のスポーツ組織はどのようにeスポーツを活用しているのでしょうか。

Clive:英国のスポーツ組織によるeスポーツ活用はまだ発展途上と言えるだろう。ただし、一定の成功を収める事例も出てきており、その例としてはプレミアリーグのeスポーツ版である、 eプレミアリーグがあげられる。

eプレミアリーグ自体はCOVID-19の感染拡大前から開催されていたが、昨年プレミアリーグの試合中止期間中に、所属するサッカー選手が出場したことで大きな注目を集めた。試合中止時の代理コンテンツとしてクラブとファンのタッチポイントの役割を果たし、クラブは新たな顧客の獲得に繋げている。

Matt:eスポーツは、大手テレビ局でも放映されるほど注目を集めている。現在はサッカーに注目が集まっているが、F1等他の競技でも近年盛り上がりを見せている。

また、eスポーツ選手の給与が高騰していることも、市場の注目度を表していると言えるだろう。

Clive:eスポーツはスポーツ組織にとって若い世代のファンとの接点として期待が高まっている。今後スポーツ組織がeスポーツを通じてより多くの成果をあげるためには、「PwCスポーツ産業調査2020」でも取り上げたように、スポーツ以外のテーマを題材にしたゲームを取り込むことが重要になるだろう。このようなゲームのファンを取り込むことで、これまでスポーツ組織が持っていなかった新しい層のファンデータを獲得することができ、ビジネスチャンスが広く繋がると考えられる。

わずか数年前まで、多くの英国スポーツ組織はeスポーツの商業化を検討していなかったが、その状況はCOVID-19の影響を受けて、大きく風向きが変わっている。


Photo by Charlie Crowhurst - FIFA/FIFA via Getty Images


英国のスポーツ産業が厳しい状況におかれていることは想像に難くなかったが、インタビューを終えて改めてその深刻さが明らかになった。5月中旬から観客動員の規制緩和がされたものの、その観戦体験は従来と比べて多くの不便を伴うことから、今後の展望を楽観視していないことは見過ごせない。

英国のスポーツ組織が回復を目指すためには、スタジアムに足を運ぶ観客の観戦体験向上が重要であり、その鍵を握るのはデジタル領域での新たなサービス導入だ。そして、eスポーツ等試合以外のコンテンツを拡充することも重要になるだろう。

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Harry Ryan-Smith◎PwC UK アシスタントディレクター。インフラ・公共部署において、スポーツ・レジャー領域を担当し、英国内外におけるスタジアム・アリーナ案件に従事。英国勅許会計士。University of Bath卒。
Matthew Taylor
◎PwC UKディレクター。税務部門のスポーツ領域を担当し、スポーツ組織やアスリートに対して税務関連サービスの提供やガバナンスの支援を提供。COVID-19感染拡大以降は、政府による給付金獲得等を支援。税務に関する20年以上の経験を有する。
Clive Reeves
◎PwC UK Strategy& ディレクター。Strategy&にてスポーツ領域を担当。スポーツ領域で10年以上の経験を有し、これまで多くの競技連盟・リーグ・クラブ等に対し事業戦略策定、オペレーション・組織改革やeスポーツ導入等、幅広い支援を提供。Leeds Beckett University (PhD), Cass Business School, University of London (MBA)。

菅原政規◎PwCコンサルティング合同会社シニアマネージャー。2005年より現職。中央省庁等の公共機関に対するコンサルティングに携わり、調査、業務改善、情報システムに至る案件を多く手がける。近年は、スポーツ政策及びスポーツ関連企業・団体向けのコンサルティングを実施。PwCが毎年発行する「PwCスポーツ産業調査」の日本版監修責任者。早稲田大学スポーツビジネス研究所招聘研究員。
安西浩隆◎PwCコンサルティング合同会社シニアアソシエイト。2017年より現職。University of California, Berkeley卒。在学中はUC Berkeleyアスレティックデパートメントにてセールスやマーケティングの施策立案・実行に携わった他、スポーツ庁にて日本版NCAA(現UNIVAS)に関するインターンシップに従事。PwC入社以降は複数のスポーツ案件に従事するとともに、海外PwCスポーツビジネスアドバイザリーとの連携に務める。

連載:Global Sports Industry Insights

文=菅原政規、安西浩隆、寺尾慎吾

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