Matt:英国のスタジアムは歴史がある分、最新技術の活用については他国に遅れている点もある。電子チケット・電子決済は、COVID-19感染対策の第一歩として導入を検討する組織が増えるだろう。
将来的には、テクノロジー企業とスポーツ組織の協働によるスタジアム内サービスの導入事例が増加すると考えている。サービスのデジタル化は、利便性向上のみならず、顧客データの取得に繋がるというメリットもある。
Clive:観客動員数の制限やソーシャルディスタンスの確保は今後数年にわたり対応が必要になる可能性がある。その場合、スポーツ組織は来訪した観戦者に対しプレミアムなサービスを提供し、入場者数が減った分を賄うことを検討するべきだと考えられる。
「PwCスポーツ産業調査2020」ではデジタル活用に対する期待が高まっていることを紹介したが、ARやVRの活用、試合前やハーフタイムのエンターテイメント拡充等、試合観戦時のデジタル活用についても検討する必要があるだろう。
Photo by Serena Taylor/Newcastle United via Getty Images
──COVID-19の影響により、スポーツ組織にとって試合以外でのマネタイズが重要になっています。英国では、選手の肖像権を活用したビジネスが盛んであるようですが、具体的にどのようなビジネスが行われているのでしょうか。
Matt:選手の肖像権は、一般的に選手の写真に加え、サイン、音声等をバンドル権利として包括し、代理店等を通じて商業的に活用されている。肖像権は、クラブやスポンサー企業から価値ある資産と見なされており、選手が関わる様々な契約で対価として利用されている。
近年肖像権に対する注目が高まった背景としては、ソーシャルメディアの人気があげられる。英国ではサッカー選手のソーシャルメディアアカウントは非常に多くのフォロワー数・エンゲージメント数を獲得しており、商業的な可能性に広がりがあることから、代理店やスポンサー企業の注目を集めている。その注目の高さから、時には選手のソーシャルメディアがクラブにとって選手の獲得判断に影響するほどである。
英国のスポーツ組織は、これまでソーシャルメディアの活用について比較的消極的な姿勢であったが、COVID-19の感染拡大により試合が行われていない中で代理コンテンツとしての役割を担えること、消費者の視聴嗜好にも変化があることから、今後積極的に活用される可能性が高いと考えられる。
一方で、肖像権の活用において、選手のプライバシー保護は重要な課題である。これは選手のデータ活用と合わせて英国のスポーツ産業で議論がされている状態である。
Clive:スポーツ組織がeスポーツやOTT(Over The Top:インターネット経由のコンテンツ配信)等、様々なデジタルサービスを推進する中で、ソーシャルメディアの活用はそのようなサービスの入り口としても重要な役割を果たす。ファンとのタッチポイントとして今後もスポーツ組織は積極的に活用していくだろう。