「ビッグクラブ」でも大打撃の欧州スポーツビジネス 一方で明るい兆しも

Photo by Ruben Albarran /Pressinphoto / Icon Sport

COVID-19の感染拡大により、スポーツ界が大きな危機に見舞われる一方で、この危機が多くの可能性をもたらすことは、前回までの記事「PwC スポーツ産業調査 2020(上・中・下)」で紹介してきた。

今回から数回にわたり、PwCのグローバルネットワークでスポーツビジネスを統括するメンバーにインタビューを行い、各国・地域のスポーツ産業の現状や今後の展望について迫っていく。

初回は、欧州編。

各都市でロックダウンなどの行動制限措置が取られる中、欧州のスポーツ組織はどのような状況におかれているのか。COVID-19による困難を乗り越えるためにどのような変革が生まれているのか。

PwC SwitzerlandのDavid Delleaに聞いたインタビューを、2回に分けてお届けする。


──COVID-19の感染拡大により、欧州のスポーツ産業が大きな影響を受けたことは明らかです。「PwCスポーツ産業調査2020」が海外で発行されてから半年ほど経過した今、改めて欧州のスポーツ産業の状況について聞かせてください。

欧州のスポーツ産業がこれまでにない規模の困難に直面していることは間違いない。

スポーツ組織はあらゆる工夫により困難を乗り越えようとしているが、繰り返し発生する感染拡大の波によりその状況は楽観視できるほど好転していない。ただし、スポーツ組織の置かれる状況は組織の種類により濃淡があることを理解する必要がある。

まず、国際競技連盟については比較的よく対応していると言えるだろう。これは数年分の財務的バッファを蓄えていたことが理由だ。ただし、東京五輪の開催やその規模に変更が生じる場合、大きな影響を受けることは免れないだろう。

一方で、欧州のサッカー産業では、多数のクラブが苦しい状況に置かれており、世界的に有名なビッグクラブもその例外ではない。理由としては、国際競技連盟とは対照的にクラブには財務的バッファがほとんどなかったことが挙げられるだろう。

試合の中止・延期や無観客開催に伴い、クラブの大きな収入源である入場料やメディア収入が大幅に減少したことは大きな打撃となった。リーグは従来の収益源が塞がれたことで、外部からの投資や公的資金の獲得を積極的に推進しており、実際にスイス国内のリーグはこれまで数度公的資金を獲得している。

政府からの援助の形態がローンから寄付に移行していることは特筆すべき点だ。これは感染拡大の波が繰り返され、もはやリーグにローンを返済するだけの財力がないことを見越して政府が実施した措置であり、リーグの財政状況の厳しさを表していると言えるだろう。

レアル・マドリードのジネディーヌ・ジダン監督
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──諸外国では、観客動員数に制限を設けず試合開催する事例もあります。欧州の状況はいかがでしょうか。

欧州では、現在もほとんどのリーグが無観客で試合を開催している。

観客動員に向けた重要な指標は、ワクチンの普及率であると言えるだろう。ワクチンの普及は、観客に対して与える心理的影響が大きいと考えられる。

すなわち、仮に政府やリーグが入場制限を緩和したとしても、ワクチンの普及が進まない限りは観客自身が積極的に試合会場を訪れたいと思わないだろう。

──世界中のあらゆる産業で “ニューノーマル” の働き方が浸透しているが、スポーツ産業はその特性上、現場での業務や長距離の移動が求められます。スポーツ組織の働き方にはどのような変化がみられるでしょうか。

多くのスポーツ組織では、試合を成立させるために必要な最低限のスタッフのみが出社し、残りのスタッフは在宅勤務により組織運営を行っている。

現場にいる必要がある職種となるのは、例えばトレーナや通訳等選手をサポートするスタッフ、撮影や映像配信を担うメディア関連スタッフ、照明や芝生管理等の施設業務を担うスタッフだ。その他大半のスタッフは自宅勤務を徹底している。

出社の有無に関わらず、選手やスタッフの体調管理は厳密に行われており、定期的な感染検査や日常的な検温を実施している。

昨年春頃のCOVID-19感染拡大当初は、スポーツ組織におけるクラスター感染の事例が複数発生したが、現在は順調に対応していると言えるだろう。

これは各チームの運営改善が功を奏したこともあるが、COVID-19の感染検査が普及し、より手軽に受けることができるようになったことも要因と考えられる。
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文=菅原政規、安西浩隆

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