──市民マラソン等に代表される参加型のスポーツイベントやフィットネス産業にはどのような影響がありましたか。
参加型スポーツは、収益源の大半が参加料であるビジネス構造の特性上、深刻な財務的影響を受けている。欧州各国におけるロックダウンの影響が大きく、既存のビジネスによる収益は実質ゼロと言っても過言ではないだろう。
ただし、この危機を乗り越えるためにあらゆるイノベーションが生まれていることは好ましい。その最たる例としては、デジタルを活用した自宅で受けられるトレーニングサービスが市民の生活に定着するほどまで成長したことだろう。
この領域では、様々なプレイヤーが参入し、アプリやトレーニング器具を活用したサービスが誕生している。この成長を支えた要因は、利用者同士が繋がることを実現し、日々のトレーニングにゲーム性をもたらしたことであると考えられる。友人や家族とトレーニング結果を競うことが消費者にとって新たなエンターテイメントになっており、今後も人々の生活に定着すると考えている。
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──COVID-19をきっかけとして、人々の健康に対する意識は変化しているでしょうか?
人々の健康に対する意識は向上したと言って間違いないだろう。ただし、それが一過性なのか、あるいは日常的な運動習慣が身につくまで向上したのか、という結論を下すには時期尚早だ。
広く運動習慣を醸成する場合、各国政府による打ち手が重要になる。例えば政府主導による健康促進のためのキャンペーンを打つことが一案だが、COVID-19の影響は依然として甚大であることから、そのような施策の着手にはまだ時間がかかるだろう。
また、私見を述べると人々のメンタルヘルスについて懸念している。例えば学生にとって、学校に登校できない、友人と集まれない、といったCOVID-19によりもたらされた日常の変化が今後も続く場合、ストレスに起因する長期的な影響を懸念している。
David Dellea◎PwC Switzerland ディレクター/PwC Sports Business Advisoryグローバルリーダー。スポーツ産業における15年以上の経験を有し、クライアントの戦略策定、組織運営、収益化等に関するサービスを提供する。クライアントは多岐にわたり、スポーツ連盟、大会主催者、投資家、スポンサー、メディア、代理店、官公庁等実績多数。スポーツテック企業を中心に、複数の社外顧問を務める。ローザンヌ大学(法学士)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(MBA)。
COVID-19の感染拡大は、欧州のスポーツ産業にこれまでにない規模の影響を及ぼしている一方で、この危機を乗り越えるために各スポーツ組織が新たな取り組みを始め、様々な領域で変革を起こしていることはスポーツ産業の将来にとって明るい兆しであると言えるだろう。
インタビュー後編ではスポーツ産業が推進する変革、ハイブリッドスポーツ、外部との協働、そしてデジタルの活用について具体的に迫る。
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菅原政規◎PwCコンサルティング合同会社シニアマネージャー。2005年より現職。中央省庁等の公共機関に対するコンサルティングに携わり、調査、業務改善、情報システムに至る案件を多く手がける。近年は、スポーツ政策及びスポーツ関連企業・団体向けのコンサルティングを実施。PwCが毎年発行する「PwCスポーツ産業調査」の日本版監修責任者。早稲田大学スポーツビジネス研究所招聘研究員。
安西浩隆◎PwCコンサルティング合同会社シニアアソシエイト。2017年より現職。University of California, Berkeley卒。在学中はUC Berkeleyアスレティックデパートメントにてセールスやマーケティングの施策立案・実行に携わった他、スポーツ庁にて日本版NCAA(現UNIVAS)に関するインターンシップに従事。PwC入社以降は複数のスポーツ案件に従事するとともに、海外PwCスポーツビジネスアドバイザリーとの連携に務める。
連載:Global Sports Industry Insights