今回髙島氏が、下北沢病院を訪れた、2つめの理由がこれだ。40代の髙島氏は、昨年経済同友会の「負担増世代が考える社会保障改革委員会」の委員長に就任。Oisixをはじめとした食のサービスで健康社会を目指すほか、自身が興味を持っていた足の健康を守ることで生まれる健康社会の可能性を、委員会で議論しているところだという。
「歩行速度の低下と認知症の発症リスクの関連性を示す研究もある。また足がダメになった瞬間に、人は突然衰え始めることもいわれている。これを逆手に取ることで、医療や介護の領域で何かできるのではないかと思っています」(髙島氏)
ここで「日本の医療の未来が見えるかもしれない」と久道医師が紹介したのが、足病医療先進国と言えるアメリカと、日本のさまざまなデータの比較だ。
「アメリカのデータを見ると、足の健康を促進することの経済効果が、想像以上に莫大だということがわかります」(久道医師)
NY州、足病医全面導入で「医療費削減年間2500億円」を見込む
例えば米国では、糖尿病に関連する医療費のうち、なんと3割が足の医療によるもの。患者の経済的負担もさることながら、繰り返す入院や、動けないことによる経済損失も、治療費以上に国の損失になっていると言われる。
またアメリカでは、高齢者のけがによる死因の第一位は「転倒」。足にトラブルがあると転倒を起こしやすいほか、不適切なフットケアは歩行の機会を減らし、肥満や関節痛を引き起こすことも。さらにここから、心肺機能の低下や認知機能の低下などを起こす、負のスパイラルを生むこともあるという。
「東京と近い環境のニューヨーク州(人口1940万人)では、足病医を全面的に導入し、足を起点に診療した場合の経済効果を推計。足の切断を回避するなどで糖尿病の入院率が37%減るほか、1万8000人分の腰痛・足痛の痛み止め薬がカットされたり、高齢者の転倒による救急治療費や入院費が削減されるなどして、年間2500億円もの医療費削減につながるといわれています」(久道医師)
日本でも国交省が、1日1500歩の歩行が、年間1人3万5000円の医療費抑制につながると発表しているほか、日本のとある町で、正しく爪を切る方法や、足にあった靴を選ぶ方法などのフットケアの啓蒙をおこなったところ、これだけで医療費が年間数万円単位で削減できたという例もあるそうだ。
医療費の多くが治療のために使われ、予防医学が弱点といわれる日本。髙島氏は言う。
「足病のような、予防、未病領域の医療のルールをどう定めていくかが今後の課題になる。弊社には食についてのデータがあるように、各民間企業や久道先生のような医療機関が持っている、歩き方や睡眠、排泄などのデータを、どうやって医療に活用していくかもポイントになるでしょうね」
とくに日本ではコロナ以降、中年世代の歩行数の減少が顕著で、十数年後、足の老化が早まると危惧されている。足から始まる医療費削減に期待大だ。