昨今、何もシステムが導入されていない業務というのは稀でしょう。重厚長大なレガシーシステムがそこに横たわっているケースの方がむしろ多いかもしれません。そんな中で、AIを業務で活用していくためには、既存のシステムやそこに存在するデータとAIをどう融合させるのか、そういった課題にぶつかります。AIだけ詳しい人間や、レガシーシステムだけ詳しい人間でその課題を解決することは難しいでしょう。一方で、両方できる人間というはものすごく限られる。大企業でAIがスケールしない原因の一つが、ここにあるように感じます。PoCレベルでは効果の見られたアルゴリズムも、周辺システムも含めた全体最適化がされず、実ビジネスの中で価値を生み出せていない例をビジネスの現場でも目撃します。これが第3の壁です。
これらの「壁」は、AI活用だけでなく、昨今の企業にとって大きな課題であるデジタルトランスフォーメーション(DX)とも深く関連しています。AIは、すべての課題を瞬時に解決する魔法の杖ではなく、単なるツールに過ぎません。まずは経営の課題を洗い出したうえで、優れた製品やサービスを提供する企業になるためには自社の業務をどのように変革すべきか、そのためにデジタル技術をどう使うのか、幅広い知識を持ったAIの専門家だけでなく、各業務領域やシステム構築の専門家達ともチームを組んで、共に改革を進めることが必要です。これがAI活用の壁を突破するための第一歩です。
▼企業が直面しているAI導入の壁
単一のAIエンジンの導入は成功しても、業務・システムトータルでビジネスをうまく動かすことができておらず、企業のAI活用は思うように進んでいない。アクセンチュア作成
次回予告 #3
今回は「AI普及元年」に起きるであろう変化およびAI活用のスケールにおける課題を「3つの壁」として整理、解説しました。本記事をお読みになり、Forbes online読者も身の回りですでに起きている出来事や心当たりのある課題を再認識したのではないかと思います。しかしAIが普及したからといって、社会のあらゆる面でバラ色な未来が訪れるとは言い難いのも事実です。次回はAIの普及によって新たに顕在化する「6つの新リスク」について解説します。
●【連載】2021年がAI普及元年となるワケ
#1:日本企業の経営幹部の77%が焦るAI導入#2:AI活用は日常になるか? 起きる変化と「3つの壁」
保科 学世◎アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 AIグループ日本統括 兼 アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京共同統括 マネジング・ディレクター 理学博士。慶應義塾大学大学院理工学研究科博士課程修了。「AI時代の実践データ・アナリティクス』 (日本経済新聞出版) はじめ著書多数。厚生労働省 保健医療分野AI開発加速コンソーシアム構成員など歴任。