KESIKIのパートナーで多摩美術大学TCL特任准教授を務める石川俊祐と、トランスローカルマガジン「MOMENT」編集長の白井 瞭が、それぞれ5つをピックアップした。
テクノロジーで幸せのオプションを増やす
紹介者:石川俊祐
新しい価値の創造には、前近代的な資本主義の特徴である「飽くなき成長の追求」に対して、「循環する」や「行きわたる」という考え方が重要になるだろう。これまで、経済性ばかりが注目されてきたが、思想や美意識といった社会性や文化性の重要性が戻りつつある。
このような動きのなかで、自分が参加できるという価値、また、自らの手で「つくる」という行為の価値が見直されている。本来、人間は本質的に「つくる」ことが好きだと思う。つくることは価値を生み出す行為であり、それがその人のウェルビーイングにもなる。テクノロジーの進歩は、ものづくりを身近で楽しいものにしてくれる。一人ひとりがデザイナーとなれれば、多様な自由と自立が成り立ち、幸せのオプションも増える。
いまは決められた成功や幸せのかたちしかないように見えるが、それが分散すれば、一直線ではない自分の人生のデザインの仕方が見えてくる。あまりに比べすぎている現代から、初めて多様性が生まれ、日本の幸せ度合いも増すのではないだろうか。
文化と経済をつなぐ合言葉は「トランスローカル」
紹介者:白井 瞭
全国各地で活動を展開するリ・パブリックが、雑誌『MOMENT』で大事にしているのが「トランスローカル」というキーワードだ。ローカルとは専門性、職種や趣味など、自分たちが普段接しているコミュニティや地域も含めた自分たちが暮らしている圏域のこと。トランスローカルはいまここにある資源や文化を読み解き直すことで、新しい価値を生む試みだ。
地域の未来を考えるとき、その土地の文脈に全く関係ないものを根付かせることは難しいし、より資本のある地域との競争に飛び込んでも勝ち目はない。身の周りにある自然、根付いてきた文化を出発点にすることが重要になる。『MOMENT』では、自分のコミュニティだけでなく、別のコミュニティで活動している人たちのことを知ったり、一緒に考えたり、話しあったりする場をつくることも大切にしている。
コミュニティが分断され、文化や経済もバラバラな状況をどうやってつなぎ直すのか。分断の壁を壊して、システムとしてつなぎ直すことがいま、求められているのではないか。