AI普及元年に起きる変化・4「真のAI活用とは、導入ではなくスケール」
企業がAI活用に成功できるかどうかは、2021年以降にAI活用を「スケールできるかどうか」にかかっています。
AIを使っている経営者や管理者はよく「当社ではAIをすでに導入しています」と語りますが、実際には、一部の部門での部分的な活用にとどまっているケースが散見されます。2021年以降は導入ではなく、「AIをスケールできるか」へと真のAI活用の意味がシフトしていきます。
「AIのスケール」とは何か。現場課題の解決といった部門レベルでの導入のみならず、「重要な経営判断や意思決定にAIを活用し、全社規模でAIを導入すること」がスケールです。しかしグローバル企業の経営者の76%(日本では74%)が「AIのパイロットの方法はわかるが、会社全体でAIを活用することに苦労している」と答えています。*2
*2 出典:アクセンチュア調査レポート「AI: Build to Scale」
2021年は、AI活用において単なる導入フェーズを過ぎ、いかに全社レベルでの活用や経営全体での活用へとスケールしていくかが求められます。そのうえでは前述の説明責任を果たせるAIのように、AIを“倫理的”に使うためにはどのような基準を設けるべきかといった観点で議論を深め、実践していくための知恵が問われる年となります。
AI活用における「3つの壁」の打破
AIが導入から継続的な活用へとフェーズが切り替わる節目の年となる2021年。1から4の変化を踏まえて企業がその転換を成功できるかどうかは、次の「3つの壁」を乗り越えられるかどうかにかかっています。
第1の壁「顧客体験・業務全体を踏まえたサービス設計ができていない」
第2の壁「業務に適したAI技術・プレイヤーを選定できない」
第3の壁「周辺機能も含めたシステム全体像が描けていない」
既にAI導入に取り組んでいる読者の皆様の中には、3つの壁に思い当たる節がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。それぞれの壁について、もう少し詳細を見ていきましょう。
AI導入を目指す多くの企業が第一に考えるのは、「既存業務の機械による置き換え」でしょう。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による既存業務の自動化はその典型と言えます。それ自体を否定するわけではありませんが、AI活用で最終的に目指すべき姿は「置き換え」ではなく、新しい顧客体験の創造や既存業務の根本的な再構築など、AIを軸に据えた「ビジネス全体の再設計」です。そもそも実現すべき顧客体験とは何なのか、あるいはその業務はどうあるべきなのか、といったように、あるべき業務の姿を考えることが大切です。AI活用を目的とせず、あるべき姿を実現する手段としてAI技術を活用することが、第1の壁を突破する鍵となります。
今、世の中には多様なアルゴリズムがあり、また様々な会社が提供しているクラウドAIサービスまで、多種多様な技術にあふれています。一方で、その多種多様な技術を、業務をしっかり理解し適材適所で活用するのは大変難しいことです。そういった背景もあり、企業がAI導入をする中では多くのAI関連の技術・プレイヤーが関与することになります。
製品化されたAIソリューションを提供するプレイヤーもあれば、カスタムで独自アルゴリズムを開発してくれるプレイヤーもいますし、データサイエンティストを育成して内製化を支援するようなプレイヤーまで得意領域は様々です。また、それらを万遍なくこなすような総合AIベンダーも存在します。AI導入を進める企業の一部には、自社のリソースに固執し過ぎてAI活用が進まない、あるいは逆に総合ベンダーに任せ結果的にベンダーロックに陥ると共に不必要に高機能のAI基盤を構築してしまう企業も見受けられます。マーケティングなどの一部領域から取り組み、その領域で専門性の高いAIプレイヤーにそのまま全社拡大を任せ、全体最適化がうまくいかないような企業もあります。AIを全社レベルで活用するに当たって、適切なAI技術・プレイヤーを選定できないこの状態が第2の壁です。