「学ぶ」ことは「生命の活性化」。その子なりの輝きを取り戻すこと
汐見さんはシンポジウムの最後を、次のような発言で締めくくった。
「人間は、あらゆることから学ぶことができます。むしろ学ぶこと自体が生きる目的だとも言えます。その子のいのちが求めているものと、その子の周りにいる大人のいのちが発しているものが響き合う中で学びが活性化するのです。
私たちが子どものためにできることは、響き合い、寄り添い、隣ること。『隣(とな)る』というのは、ある児童養護施設の方の言葉ですが、困難なときこそ、その子の隣にいてあげることです。そのような関わりのなかで、その子の生命を活性化することができれば、その子なりの輝きを取り戻し、学び始めることができるのだと思います」
副島さんも「学びの前提として、その子の感情の向こうにある願いを聞いてくれる人がそばにいることが大事。いまを大切にすることを許されない子どもたちを少しでも減らしたい」と発言すると、佐藤さんも「あの日大切なものはいつも大切」「もしもはいつもの中にある」という言葉を、オンラインの画面から届けてくれた。
本来、子どもはいまを生きる存在である。私たちは目の前の子どものいのちが輝くことを願いながら、関わることができているだろうか。
「GIGAスクール構想」によるタブレットやオンラインの導入にあたって、本当の意味で、子どもたち1人1人の「学び」が動き出すために、全ての前提として必要なことにもう一度立ち返りたい。
【連載】人はなぜ「学ぶ」のか?【全5回】
1.災害や不登校 日常が壊れたとき、「学び」とどう向き合うか
2.子どもたちにとってのサードプレイス。自宅と学校以外の「居場所」が果たす役割
3.遅れをとる日本の「インクルーシブ教育」。その本質を見つめ直す
4.子どもたちは何のために「学校」で学ぶのか? 学びの本質を問う
5.子どものいのちは輝いているか? 教育の変わり目に感じたこと
連載:教育革命の最前線から
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汐見稔幸(しおみ・としゆき)◎東京大学名誉教授、日本保育学会会長、全国保育士養成協議会会長、白梅学園大学名誉学長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所代表理事。1947年大阪府生まれ。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。21世紀型の教育・保育を構想中。NHK Eテレの番組などにも出演。保育、子育て、教育などについてのわかりやすい解説には定評がある。
副島賢和(そえじま・まさかず)◎昭和大学大学院准教授、昭和大学附属病院内学級担当。学校心理士スーパーバイザー。1966年福岡県生まれ。公立小学校教諭として25年間勤務。2006年より8年間、昭和大学病院内さいかち学級担任し、2014年より現職。ホスピタル・クラウンでもあり、ドラマ「赤鼻のセンセイ」(2009年)のモチーフにもなった。2011年NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」出演。『ストレス時代の子どもの学び』(風鳴舎)ほか著書多数。
佐藤敏郎(さとう・としろう)◎小さな命の意味を考える会代表。大川伝承の会共同代表。1963年宮城県生まれ。宮城教育大学卒業後、中学校の国語科教諭として勤務。大川小での語り部やラジオDJ、講演などを通して防災教育や子どもの居場所作りの重要性を発信している。2016年『16歳の語り部』(ポプラ社)で「平成29年度 児童福祉文化賞推薦作品」受賞。NPOカタリバ アドバイザーとしても活動。