目標は、会議に出席する全員の関与を深め、意思決定に貢献させると同時に、そのプロセスをスピードアップさせることだ。そこで役に立つのが、先述した「制限のある総意」だ。
「制限のある総意」では、合意形成をめざして真摯に取り組むが、全員一致の達成が難しい場合には、リーダー(とミーティングの参加者たち)に「最後の手段」が提供される。基本的には、グループの全員が話し合い、議論し、納得するための一定の時間を設ける。その時間内に全員の意見が一致しなければ、リーダーが決断を下すか、投票にかけるわけだ。
以下では、次回のミーティングの冒頭で実際に使える脚本を紹介しよう。
「みなさん、この会議の目的は、ABC基準を変えるべきかどうかを話し合うことです。どの方針をとるにしても、優れたアイデアがあると思いますので、これからの60分間は、それぞれのアプローチのプラス面とマイナス面を掘り下げる時間とします」
「理想を言えば、全体的な合意が生まれ、全員が同じ結論にたどりつく全員一致の結論が得られればいいのですが、それが達成できない場合は、私がすべての選択肢をはかりにかけ、みなさんから出た意見をもとに決断を下します。その狙いは、全員に最高のアイデアを出してもらいつつ、会議が膠着状態に陥って3時間が過ぎてしまうようなことがないように、最後の手段を用意しておくことにあります」
どんな活動であっても、タイムリミットを設けることで、努力と熱意が高まり、プロセスがスピードアップする効果が得られる。議論を30分や60分、あるいは90分に制限することで、実質的には、グループ全員にこう伝えていることになる。「的はずれの会話をしたり、脱線したりして、時間を無駄にしないように。とにかく、最良と思われる意見を単刀直入に主張すること。そして、些末なことにはこだわらない。なにしろ、時間がないのだから」
もちろん、リーダーのなかには、グループの議論に制限を設けることに、少しばかり抵抗を覚える人もいるだろう。100万人を超えるリーダーが受けた「あなたのリーダーシップスタイルは?(What’s Your Leadership Style?)」というテストでは、最も多かったスタイルが「外交官」だった。
「外交官」は、人と人との調和を重んじる。社会の接着剤であり、グループをひとつにまとめる親和力でもある。親切で、社交的で、思いやりがあり、たいていは部下とのあいだに深い個人的な絆を築く。ただし、外交官タイプのリーダーは一般に部下から積極的な関与や支持を得られるが、その一方で、コラボレーションを重視したそのスタイルのせいで、迅速に下すべき決断に、長い時間がかかってしまう場合もある。
前述のテストを受けて、自分のリーダーシップスタイルが「外交官」と判定された人は、「制限のある総意」を採り入れるにあたって、時間をやや多めにかけて始めてみるといいだろう。30分の議論時間をチームに与えるかわりに、60分に設定してみよう。あるいは、合意形成の達成を試みた最近の議論の所要時間を調べて、その時間を30%だけ短くしてみてもいいだろう。