popIn|異分野のプロジェクターがヒット
photograh by Munehiro Hoashi (AVGVST)
コロナ禍で在宅時間が増えたことにより、大画面を楽しめる家庭用プロジェクターの人気が高まった。中でもシリーズ売り上げ8万5000台以上を突破した、大ヒット商品が「popIn Aladdin(ポップインアラジン、以下アラジン)」だ。ネイティブアドネットワークのpopIn(ポップイン)が開発した異色のヒット家電でもある。
「ソフトウェアの会社がなぜハードウェアをやるのか。当初は社内でも驚かれましたよ。もともとは個人の趣味で始めたものでした」
アラジンを着想したのは代表取締役社長の程涛。中国出身で、2008年に東京大学大学院の修士課程の時に同社を立ち上げた。WEBメディアの広告レコメンドなどで事業拡大し、15年に中国の検索大手、百度の傘下に入った。
きっかけは幼い3人の子どもたちと一緒にいた時の違和感だ。同じ部屋にいてもスマホやタブレットを見る時間が長く、コミュニケーションが少ない。みんなで大画面を共有したいと市販のプロジェクターを試してみたが、置き場所と長いケーブルが厄介だった。そこで、天井に照明を設置する「引掛けシーリング」を利用したアラジンの原型が16年に生まれた。
popInのコンテンツ・レコメンドサービスは、大手メディアで多数採用されており、記事の読了率や行動履歴に応じて、読まれる記事や広告を自動で最適化して表示するもの。プロジェクターとは関係ない事業のようだが、程の考えは違った。プロジェクターを「自宅でコンテンツをレコメンドする情報環境を提供するデバイス」だと考えれば、プロジェクター開発もレコメンド技術の「新たな挑戦」と言える。社内の理解を得て、事業化の道が決まった。
popInの本業の強みを発揮するのが内蔵のソフトウェアだ。動画を楽しむだけでなく、小鳥のさえずりとともに部屋を明るくする目覚ましアプリや、世界の風景やアート作品、時計を映し出すインテリアとしてのアプリもある。学習ポスターなど独自開発した子ども向けのデジタル学習教材も充実している。音声操作も可能で、将来的には何もしなくても一日中、自動のレコメンド機能で最適な情報が表示される仕様も検討しているという。
「目的は、プロジェクターを売ることではなく、プロジェクターに最適なOSをつくりあげて、自宅で最高の大画面のレコメンド環境を実現すること。情報が氾濫する時代には情報を正しいタイミングで賢く伝えて、伝導率を高める『情報のインテリジェント化』が必要です。それをかなえるのがアラジンの映す『未来の壁』です」
9月に一般発売した「popIn Aladdin(ポップインアラジン)2」(実売価格9万円代)。天井の「引掛けシーリング」に 設置でき、置き場所が必要なく、追加工事も不要。購入層の大半が20代から40代の家族世帯や夫婦、シングル世帯だ
中国の百度の傘下企業とあって、経営陣の国籍は日本と中国が半数ずつ。台湾と韓国国籍の従業員もいて、アジアの叡智を結集させた人的資本がイノベーションを生み出す源泉となっている。