これは、いわばビジネス判断の迅速化・高度化をAIでサポートするツールであり、ライバル企業との差をつけるのもAI。AIを制する企業が未来を制します。つまり、AIは「人の仕事を奪う」どころか、人の能力を拡張し、新しい仕事を増やすこともあるのです。(「AI Poweredサービス」については、本連載の第3回で詳しく紹介します)
先端的な医療研究でのAI活用
また昨今の医療現場は、新型コロナウイルスだけでなく引き続き様々な病気と対峙し、患者の治療や研究に取り組んでいます。特に日本には財政における公的な医療費の負担が大きいという課題があります。デジタル技術を活用して医療を高度化させつつ、負担は軽減したい──この分野でもAI活用に着手している病院が増えています。
たとえば東京女子医科大とアクセンチュアは昨年、腎移植治療におけるAI活用について共同研究を始めました。また、国立国際医療研究センターとの共同研究では、生活習慣病のリスク予測AIモデルを開発しており、昨今の医療業界で「AIによる判断のブラックボックス化」が課題になっている中で、説明可能なAIの活用を目指しています。ディープラーニングをはじめとする関連技術の利用に踏み込んでいるこれらの医療機関との研究内容は次回(本連載第2回)で紹介します。
AI活用は「人材育成」と同時に進める
AIはいまや企業に必須のツールですが、同時に「AIを活用できるデジタル人材の育成」も進めなければならないと多くの経営者が認識しています。アクセンチュアは昨年10月、「AIセンター」を設立しました。このセンターは研究・開発拠点であると同時に、AI人材の育成も支援しています。
私が責任者を務めるAIグループは、組織体制も大幅に拡充しました。データに基づく戦略策定の支援はもちろん、最新のアルゴリズムを活用した新規サービス立案策定、データサイエンティスト育成支援やアナリティクス・AI組織立ち上げ支援など、ビジネスのあらゆるステージで変革を支援するパートナーとなることを目指しています。
AIは万能ではないのです。万能神話は導入を目的化してしまうでしょう。AIを理解し活用を提案・実装できることが重要であり、そういったことができる人材が必要不可欠なのです。
次回予告 #2
今回はAIを切り口に2020年を振り返りながら2021年を予測し、私が注目している動向からアクセンチュアの直近での取り組みまで幅広く俯瞰しました。次回はより踏み込んで、2021年が「AI is Everywhere」=企業活動・日常生活にAIが入り込みその活用が問われる“元年”になるとの予測のもと、AIを全社規模で導入するにあたって乗り越えるべき「3つの壁」について説明します。
保科 学世◎アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 AIグループ日本統括 兼 アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京共同統括 マネジング・ディレクター 理学博士。慶應義塾大学大学院理工学研究科博士課程修了。「AI時代の実践データ・アナリティクス』 (日本経済新聞出版) はじめ著書多数。厚生労働省 保健医療分野AI開発加速コンソーシア ム構成員など歴任。