「セーフティーネット」と「チャレンジサポート」
──優秀なメンバーを集め、エンゲージメントを高める秘訣についてお聞かせください。
組織づくりを語る上で基本となる概念は「セーフティーネット」と「チャレンジサポート」の組み合わせだと思っています。
「セーフティネット」というのは、メンバーの生活を守る機能のことです。
例えばマザーハウスはどんな社員であれ「最低年収300万円」と決めています。これは安月給が多い小売業界では革新的な取り組みですし、社員の心理的安全を担保するうえでも強烈なメッセージになっています。
人生、良い時もあれば悪い時もあります。出産・育児や介護で働く時間を確保しづらくなったり、予期せぬ病気になってしまうことだってある。「良い時だけ働いてもらって悪い時はさようなら」では絶対に会社は成り立ちません。
なので会社の「セーフティネット」をどう設計するかは、組織づくりにおいて非常に重要なポイントだと思っています。
一方で当然「セーフティネット」だけでは会社は成長しません。チャレンジする人がいてはじめて会社は新しい価値を生みだすことができます。チャレンジする人を応援する「チャレンジサポート」の仕組みとバランスさせながら、組織をつくっていくことが大切です。
──とはいえ、どうしてもコストがかかってしまうため制度を導入できない会社も多いのではないかと思います。
当然コストがかかることですが、大切なのは仕組みを導入するだけでなく、「みんなで考えること」と「トップがコミットすること」だと思います。
例えば「育児しながらの働き方」について考えるプロジェクトが社内であり、そこでは働くママたちと私が一緒になって企画を検討しています。
加えて経営者として意識すべきは、「何が起きても助け合えるだけの余剰人員を持つこと」です。そのためには、ある程度バッファを持てるだけの利益が必要となります。
日本企業は欧米企業に対して目指している利益率が低すぎます。大企業ならそれでも「セーフティネット」に投資できるかもしれませんが、規模の小さいベンチャーでは無理です。
メンバーの「セーフティネット」が今の先行き不透明な時代には必要だからこそ、その仕組みを維持できるだけの利益率を出すこと。私はこれを絶えず意識して経営しています。
トップこそ正直たれ。ブランディングに差をつける経営哲学|マザーハウス 山崎大祐#3 に続く
山崎大祐◎1980年東京生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。大学在学中にベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したことをきっかけに、途上国の貧困・開発問題に興味を持つ。2003年に新卒でゴールドマン・サックス証券に入社しエコノミストとして経済分析や金融商品提案などに従事。2007年3月に同社を退社後、大学時代のゼミの1年後輩だった山口絵理子氏が創業したマザーハウスの経営への参画し、副社長に就任。
連載:起業家たちの「頭の中」
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