マザーハウスを作り上げた創業者間の役割分担
──ゼロイチフェーズでは三振するリスクを想定しながらも、打席にたくさん立つことを許容する度量が経営者には必要ということですね。
これは役割分担もあると思います。マザーハウスの場合は山口が「0を1にする」のが得意で、私は「1を10にする」のが得意です。でも間違えてはいけないのが、私がゼロイチに全く関与しないわけではないということです。
ゼロイチフェースにおける私の役割は、その事業が10にも100にも成長しうるかどうかの「1の見極め」です。「0を1にする人」に向き合い続け、「1」を見つけた瞬間に資本を引っ張ってきて投下する。つまり「1を10にする人」は、「0を1にする人」のグレートサポーターにならなくてはいけないのです。
この点は創業当時からすごく意識していて、成否が読めないことでも「やってみたらいいじゃん」というスタンスを大切にしてきました。山口がバングラデシュに行くと言った時にも、全員が無理だと反対する中で「面白いじゃん」と言ったのは私だけだったそうです。
今でも新規商品開発のことを山口と常に議論していますし、山口が横で商品をデザインしながら私が事業計画を整理するということもしょっちゅうあります。
「0から1」を生み出せるかどうかが会社の未来を作る上で必要不可欠だからこそ、「0を1にする人」のグレートサポーターであり続けることが私の使命だと思っています。
──事業フェーズに応じて、役割分担を明確に分けられているのが印象的です。
もうひとつ役割分担のあり方として「人・組織と向き合う人」「ビジョン・バリューに向き合う人」「お金に向き合う人」という分け方があります。言い換えるとヒト・モノ・カネですね。
マザーハウスの場合、山口は徹底的に「ビジョン・バリューに向き合う人」。ものづくりの過程でもちろん工場の職人さんと向き合ってはいますが、究極的には「モノ」をとことん突き詰める人間です。逆に私は「ヒト」「カネ」の部分を見ています。
この役割分担のあり方はメンバーや事業によって異なるとは思いますが、適材適所を常に意識することは創業期のベンチャーにとっても重要だと思います。
経営者人生を変えた「事件」
──これまでゼロから600名規模の会社に成長する中で、経営者としてぶち当たった壁などがあれば教えてください。
私にとって一番大きかった壁は起業して5年目の頃、社員が日本に30名ほどいて事業規模2〜3億円くらいのときでした。
何があったかというと、スタッフが連続して2名退職してしまってその穴埋めをどうするかメンバーで話し合っていたときに、「山崎さんが価値観や働き方を押し付けてるせいであの2人は辞めました」とメンバーから言われてしまったんです。
当時は会社もギリギリのところでやっていて、長時間労働でも給与は月18万円といった状態。そんな中で私は私なりに誰よりも会社のために一生懸命仕事をしていたつもりでした。
私も言いたいことはたくさんありましたが、そこはぐっと堪えてメンバー全員の意見を聞き続けました。2時間くらい経営者としてダメ出しをされ続けたんじゃないかと思います。
そしてそのきっかけを経て「自分が変わらなきゃいけない」と覚悟が決まったんです。