こうしたニューカマーのロビンフッダーたちが、自分でニュースやSNSから情報を集め、自分で銘柄を選んで、従来の銘柄選択のPERやEPSなどのファンダメンタルを重視するなどという基準も飛ばし、投資する。その動きには、プロ投資家さえも翻弄され始めている。
売り残が多い株に対して、株価を上昇させ、売りを踏み上げ、オプションの買いと合わせて、その売り解消圧力(ショートカバー)を利用した株価の上昇を誘う。単に情報が平準化し、プロと一般投資家が手に入れる情報が同じになったということだけではなく、同じアプリのなかでSNSやRedditというオンライン掲示板などで、この株を仕掛けるといいという情報が流れると、一斉にその株に向かう集団的な動きを取る。いわば「個人仕手株集団」と化しているのだ。
それはSNSを細かく監視し、その輪のなかにいればある程度把握できるが、プロのファンドマネージャーからすれば、従来の常識ではあり得ない上昇や動きをするわけだ。
最近の、ビデオゲーム販売店であるGameStop株や全米の映画館チェーンであるAMC株などの上昇は、Reddit上で集まった個人集団による仕手株戦の様相を見せ、1月25日には売り残の多い低位株が急上昇する動きが目立ち、有名な株の番組を仕切るジム・クレーマーは「市場のメカニズムが壊れている」とさえ言い出した。
また、すでに昨年末に彼は、「いまの個人投資家は、単に好きか嫌いか、儲かりそうか儲かりそうでないかだけで取引をしていて、従来の常識では考えられなくなってきている」という旨の発言もしていた。
TD Ameritradeなどの証券会社も、アメリカ株式市場にはストップ高のシステムもないため、自主的にトレードの規制に乗り出した。政府や議会、SEC(米国証券取引委員会)もこの状況を看過できず、監視対象とし、問題視している。Reddit側も該当するフォーラムを一般公開しないで、招待が必要なメンバー制に急遽切り替え、自主規制に乗り出している。
振り返れば、ロビンフッドという会社自体、リーマンショックの余波がまだ続く2011年、マンハッタンのダウンタウンで随分長い間公園を占拠した「Occupy Wall Street(ウォールストリートを占拠せよ)運動」に影響を受け、「収入にかかわらず誰もが利用できる金融サービス」を目指してつくられたものだ。
単に投資をアプリゲームと一緒だと考えているロビンフッダーが、市場を掻き回しているというような現象面しか見えないかもしれないが、ミレニアル世代なりの、経済格差にのみ込まれないための行動なのだ。
リーマンショックのときに目の当たりにした経済格差の問題から生まれたロビンフッドが、ピケティの理論にも裏打ちされ、経済格差に対抗するために、投資の民主化や大衆化を目指し、ウォールストリートを占拠せよ運動から10年目に、当初の目的を実現しつつあるとみれば、一筋の背骨が通っているとも言えるかもしれない。
連載:ポスト・コロナのニューヨークから
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