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2021.01.08 07:30

新年を迎えたニューヨーク 不動産事情とワクチン接種から見える「今」

Alexi Rosenfeld/Getty Images

Alexi Rosenfeld/Getty Images

コロナ禍のなかでニューヨーク市は新しい年を迎えた。昨年末から再びレストランの室内飲食が禁止されたため、ニューヨークの至る所では、レストラン前に設置されたテントが祭りの屋台のように並んでいる。

1904年に始まった恒例のタイムズスクエアの年越しには人が集まることが禁止され、カウントダウンイベントもバーチャルでの開催となった。34丁目にあるメイシーズ本店のショーウィンドウ前は、毎年クリスマスの買い物客で溢れ、景気が良い時には避けて通らないと進めないほどであったが、今回は何ごともなく通り抜けられた。

1970年代のニューヨークに似てきた


ニューヨーク市のクイーンズ区とブルックリン区では、1日の感染者数が1000人を超える日が続いており、昨年の4月並みに、救急車のサイレンが多く聞こえてくる。

コロナ禍が始まってから300日近くになるが、全米での1日の感染者数は25万人、死者数も3000人という数字が続き、これは日本のこれまでの累積数をも凌ぐ。300日の累計とし人口比で計算すると、アメリカは日本の110倍以上、感染が拡大しているということになる。クリスマス休暇から年末年始にかけてのバケーションで、さらなる増加も懸念されている。

ロイターによると、2021年夏までに、アメリカの死者数は50万人を超えるという予測も出されている。ニューヨーク・タイムズでは、昨年は例年より死者数が35万6000人も多く、そのうち新型コロナウイルス感染症以外の死因によるものは10万人程度とも報じられた。

実際に私の周囲でも、春先から毎月1人ずつくらい、年配の方が新型コロナ以外の死因で亡くなられている。病院に行くのをためらったり、入院してからも医療の圧迫により従来ほど医療サービスを受けられなかったりして、亡くなられたという印象も強い。

犯罪の増加も顕著で、昔を知る近隣の眼鏡屋の主人や、朝鮮戦争を経験した80代の老人、クイーンズで育った50代の女性からも、1970年代のニューヨーク市の雰囲気に似てきたと、異口同音に聞かされる。ニューヨーク市の財政悪化の影響で、地下鉄やバスの運行、警察の予算がカットされたことによる治安の悪化は、このところの懸念材料である。

筆者の専門である不動産業にも影響が表れている。ニューヨーク市の中心であるマンハッタンの商業不動産取引も、2020年1月から11月までで54%減、店舗も閉鎖や退去が相次ぎ、家賃の値引き交渉や、滞納が増えて来ている。

昨年9月のFOMC(連邦公開市場委員会)で、ジェローム・パウエル議長が商業不動産への懸念を表明していた通り、テナントの家賃支払い猶予期間が2021年5月まで再延長が検討されていたり、特にローンで買ったビルのオーナーの場合、テナント店舗からの家賃収入が見込めず、商業ローンの支払いが滞り始めている。

FRB(連邦準備制度理事会)による全米商業不動産の負債残高データでは、2012年の約224.4兆円(1ドル=102円換算、以下同様)相当で、この10年で最低だった地点を底にして、2020年の第3四半期には約312.2兆円まで上昇してきている。

CMBS(商業用不動産ローン担保証券)の残高は、11月には約61.2兆円の10.2%にあたる支払いが遅れ、90日間の支払い猶予を求めるSpecial Serviceカテゴリーに入ってきている。2008年のリーマンショック時のピークにはまだ12.6%ほど届かないが、今後もさらなる増加が容易に予想される。2021年3月以降には猶予期間が切れ、いよいよCMBSが傷み始め、これを抱えているファンドに影響を及ぼす懸念が示されている。
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文=高橋愛一郎

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