太田社長は、今回のファクトリズム実行委員長も務めている。なぜ八尾を中心に5市合同でオープンファクトリーのイベントを開こうと思ったのだろうか。尋ねてみると、こう打ち明けた。
「八尾市のほとんどの工場がBtoBの仕事をしていて、一般の方が来られる機会はなかなかありません。最初は『めんどくさい』『危ない』『ノウハウが取られるのではないか?』というネガティブな声もありました。リスクはゼロではないけれど、従業員の働きが見られることで社会に役立っていること、人を笑顔にしていることを知って、より自分の仕事にプライドも持てるし、刺激になります」
もともとは、2018年夏から八尾市内の中小企業が集い、子どもたち向けのものづくり体験ワークショップなどを開く場「みせるばやお」を近鉄八尾駅前に開設し、太田社長や木村石鹸工業の木村祥一郎社長らが理事を務めてきた。そこで、以前から地域のものづくりをもっと広く知ってほしいと、一般の人たちも工場に足を運べるイベントを模索していた。
そこで、産地ツーリズムを通じて産地や工場の思い=主義(ISM)を伝えたいと、ファクトリズムの構想が持ち上がった。ものづくりの体験や工場見学そのものを「エンターテイメント」と捉えて、家業のストーリーを受け継いでいきたいという。
「消費者、ユーザーと繋がりたい」というだけでなく、「クリエイター、デザイナーにものづくりの現場を知ってもらい、ビジネスに繋げる」といった、各企業の狙いもある。
八尾らしさ、大阪らしさ満載の「モノタメ」を世界に!
コロナ禍でオープンファクトリー自体はオンライン開催として規模を縮小したものの「物理的な距離を超えて、ユーザーの方ともっと広く繋がるきっかけになった」と、太田社長はポジティブに捉えている。
ファクトリズム実行委員長を務める錦城護謨の太田社長 5市広域連携をした狙いは?
5市の広域連携は、2025年の大阪万博を見据えて、ものづくりのエンタメ化を図るものだという。太田社長は「5年先をみて地域を元気にしたいので、この取り組みを面で広げていきたいんです。日本だけじゃなく、世界中に大阪のものづくりを発信していきたいです」と意気込む。
オープンファクトリーのオンライン配信だけでなく、イベント登壇なども自らこなしていた八尾市職員の松尾は「社長のキャラが濃く、文化祭のように好き勝手盛り上げてくれる会社ばかり。大阪らしく、面白いものづくりを発信して、日々のオペレーションをこなす従業員も活気づけられたら」と語る。
今回、車で八尾市内の工場を6社巡った。絶え間なく、工場が並ぶ通りもあった。市内の製造業の事業者数は3075社にも及び、約3万8千人が働いている(2016年6月現在)。思えば、市内面積は約42平方キロメートルと決して大きくないなかで、凄まじい数だ。
新潟・燕三条や福井・鯖江など、日本各地で産地ツーリズムが盛り上がっているが、大阪の笑いを全面に生かしたものづくりエンターテイメント「モノタメ」という切り口は斬新だ。コロナ禍では現地に足を運ぶことは難しいが、五感で工場の匂いや温度を感じながら、またものづくりの現場の熱気を感じ取れる日が待ち遠しい。
スモール・ジャイアンツの工場が並ぶ八尾の風景
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