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2020.04.24 08:30

町工場の正直さが生んだ、「万人受けしないシャンプー」の開発秘話

代表取締役社長の木村祥一郎

代表取締役社長の木村祥一郎

大正13年創業の木村石鹸が開発したシャンプー&コンディショナー「12/JU-NI(ジューニ)」は、流行やこれまでの常識には一切見向きもせず、本当に髪を良くするにはどうするべきかを1人の研究者が徹底して突き詰めて生まれた。

同社は感染症の拡大で市場が冷え込む中、「12/JU-NI(ジューニ)」の一般販売に踏み切った。なぜか。代表取締役社長の木村祥一郎に開発の裏側、そして今後ブランドが目指していくべき方向性を伺った。

髪を良くすることに真摯に向き合ってきた、1人の研究者


──「12/JU-NI」の開発背景について教えてください。

一般的なシャンプー&コンディショナーの開発前には、市場調査やマーケティング活動がしっかり行われます。しかし、「12/JU-NI」は一切そうした活動を行っていません。

2018年のある時、弊社の技術者である多胡健太朗が、「ものすごいいいものが出来ました!」と、自信をもって提案してきたことから「12/JU-NI」のプロジェクトがスタートしました。

──多胡さんとは、どのような方なのでしょうか?

彼はこだわりを持った研究者です。大学、大学院と畜産を学び、その後、ヘアケアの原料メーカーに入って原料の開発に従事した後、今度は化粧品OEMの会社に行き、主にヘアケア製品の処方開発をやってきました。実際のシャンプーの開発に携わる中で、もっと正直な開発がしたい、本当に効果のあるもの、良い原料をたっぷり使って良いものを作りたい、そんな想いが高まり、募集もしてなかった木村石鹸の開発職に応募してきたんです。

彼が入社した2014年当時、木村石鹸では、ヘアケア分野の商品は全く手掛けていませんでした。自社商品として展開する予定もありませんでした。そんな中ですが、多胡は他の様々な商品開発の傍らで自分の納得いくシャンプーを作ろうと試行錯誤していたのです。

彼は、本当に謙虚な人間で、開発したものを積極的にアピールすることはこれまでなかったのですが、突然「すごいものができました!」と全社のチャットで報告してきたんです。社内もざわつきました。


「12/JU-NI」を開発した技術者の多胡健太朗

──社内もざわつくシャンプー……。

さっそくそのサンプルを使ってみました。「泡立ちが悪い」「伸びが悪いな」が最初の印象でした。洗った感じはあまり良くなかったのですが、ドライヤーをあてると髪がサラサラになって驚きました。そして、翌日はいつも付く酷い寝癖がついていなかったんです。「たまたまかな」と思っていたら、髪の艶もいいし潤いもある。その日から寝癖がほとんどつかなくなったのです。

自分は寝癖が本当にひどくて、どれだけドライヤーで乾かしてもダメだったのに……。実は、寝癖は髪が傷んでいるとつきやすいのです。髪が傷んでいると、どんなにドライヤーで乾かしても寝てる間に水分を吸ってしまいます。水分を吸うと髪は変形しやすくなり、その結果、寝癖がつきやすくなるのです。そこでシャンプーを使って髪に栄養分を送り、傷んだ箇所を補修する。すると健康な髪と同じ状態になり、寝癖がつき難くなるというわけです。

社内でも「いいシャンプーができた」と話題になりました。妥協せず、本当に良いものを作りたいという多胡の思いが込められたシャンプーを、なんとか髪の悩みを抱えている人たちに使ってもらいたいなと。そこから商品化を進めていくことになりました。
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文=大木一真 人物写真=小田駿一

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