ビジネス

2020.03.16

木村石鹸、ファンづくりの秘訣 合言葉は「ちょうどいい」

木村石鹸『SOMALI』

※この記事は、2020年3月にXDで公開されたものを転載しております。

誰もが発信者になれるなかで、“企業”と“個人”の距離が急速に縮まりつつある現代。企業が届ける商品やサービスの質、語る想いが「どこまで本当なのか」は、緩やかに、だが確実に生活者へと伝わるようになってきている。

そんな環境下で、「正直さ」を貫く姿勢が周囲からの信頼をつくり、顧客の輪を広げている企業がある。創業96年の老舗石けんメーカー、木村石鹸だ。

さまざまな種類の石けん、洗浄剤、化粧品などの製造販売を行う同社。家庭用品から工場などで使われる業務用のものまで、「関わる人すべてが幸せになる」製品づくりを目指し、多岐に渡る顧客ニーズと向き合ってきた。

自社ブランドでは「これがちょうどいい」、OEMでは「木村石鹸と一緒に何かしたい」──そんな声がさまざまに寄せられる、木村石鹸のモノづくり。

同社が開発する上で、大切にしていることは何なのか。その姿勢は顧客にどう伝わっているのか。大阪・八尾市の本社を訪れ、代表取締役社長の木村祥一郎氏に伺った。

自社製造だからできる、“特徴ある”石けんづくり


「石けん」という言葉から、多くの人は四角い固形の、手や体を洗うものをイメージするだろう。しかし、実際には液体の製品もあり、用途も洗濯や掃除用などさまざまものがある。それらを幅広く扱っているのが、木村石鹸だ。

近年は、化学合成の界面活性剤でつくった「合成界面活性剤」も普及しているが、同社によると、石けんはそれらと比較して手肌や衣類に優しい、環境への負荷が少ないといったメリットがある。歴史は古く、紀元前から存在しているという。


木村石鹸の「釜焚き」製法(提供画像)

木村石鹸を語る際に外せない特徴の一つが、1924年の創業時から続く「釜焚き」製法だ。職人が手作業で調整しながら、製品の主原料となる「純石けん」をつくる。手間はかかるが、石けんならではの安全性や優しさを届けるため、先代の社長・木村幸夫氏もこの製法にこだわってきた。

そんな同社のものづくりの姿勢を、象徴するようなエピソードがある。今から約50年前、当時の銭湯や公衆浴場では、浴室を掃除するのに酸性の強い洗剤でタイルを磨いていたが、作業者の目にしみ、咳こませるうえ、タイルも痛むという問題があったという。見かねた先代の社長は、石けんで優しく簡単に汚れを落とせる洗剤を作れないかと、営業終了後の銭湯に何度も通い、銭湯向けの洗剤を開発。結果、同社最初の“ヒット商品”となった。

こうした多様なニーズに合った石けんをつくる上では、「釜焚き」によるものづくりにこだわり続けたことが大きなメリットになっていると、現社長の木村祥一郎氏は話す。

木村氏「海外から純石けんを輸入して加工もできますが、より“特徴のある石けん”をつくろうと思うと、自社で焚いていないと難しいんです。逆にそれができれば、原材料の油の種類によって性質を変えられますし、純石けん以外の成分とのブレンドの幅も広がります」
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執筆/佐々木将史 編集/庄司智昭 撮影/其田有輝也

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