生活が楽しくなることを目指した初めての自社ブランド開発では、狙いの通りに「台所でこのキッチンソープを使うのがすごく嬉しい」「SOMALIで洗濯するのがすごく楽しみです」といった嬉しい声が多く届いた。
なかでも木村氏が、自社にとって特に印象的だったと話すのは、“ちょうどいい”という顧客の言葉だ。
木村氏「SOMALIでは、相性の良い素材同士を組み合わせて、石けんが本来持つ安全性などのメリットを最大限発揮できるようにしました。そうしたコンセプトや、尖り過ぎず日本の生活空間に馴染むように意識したボトルデザインを見て、『ちょうどいいなと思いました』という方がすごくいらっしゃって。
それらのバランスは、もちろん意識をして開発していました。ただ、私たちのブランドの姿勢を、お客さまから“ちょうどいい”という言葉で言われたときに、『これって木村石鹸っぽいかも』って気づいたんですよ」
木村石鹸のオンラインショップ『くらしの丁度品店』
木村氏「後にオープンさせたオンラインショップ『くらしの丁度品店』は、その“ちょうどいい”に、“調度品”を掛け合わせた名前になっています。
会社の姿勢も自社ブランドの製品も、あまり尖りすぎることなく、お客さまにとって一番使い心地のいいところを目指したい。使っているときも使っていないときも、調度品のように愛おしいモノを届けたい。そんな思いを込めて、この言葉を使うことにしました」
「バランス感覚」と「正直さ」重視で顧客に向き合う
SOMALIが目指した「使って楽しくなる製品」という開発姿勢は、『家事を遊びに遊びを家事に』というフレーズとして、木村石鹸のブランドを象徴する言葉の一つとなっている。洗浄力だけを売りにする、あるいは利便性だけを謳う製品は、基本的につくっていない。
たとえば、「家事のシェアリング」を掲げたお掃除用のホームケアブランド『&SOAP』。既存の掃除道具が女性向けのデザインが多いことに疑問を覚え、ユニセックスなデザインにしたほか、掃除を「つけおき」「洗剤」「コーティング」の3ステップに分けて、商品を展開した。「カビ対策のコーティングは私が」と分担できるイメージだ。「家族で家事を担い合うことが前提になっているラインナップがあっても良いのではないか、という想いで作ったんです」と木村氏は語る。
オールインワンではなく、つけおき、洗剤、コーティングそれぞれに適した機能を持たせた『&SOAP』
こうした自社ブランドの開発に際して、重視していることが二点あるという。
一つ目は、「バランスの良い」製品づくりをすることだ。石けんへのこだわりを見せ、伝統の釜焚きを続けている木村石鹸だが、化学合成の界面活性剤も決して否定しない。
木村氏「石けんは紀元前から続く歴史もあり、安全面の“無難さ”が保証されているのが、大きなメリットです。一方で、洗浄力は合成界面活性に劣るので、利用シーンによっては洗浄力を確保するために、合成界面活性剤の何倍もの量の石けんを使わなければならないこともある。それは果たして環境に対して優しいと言えるのかという懸念が生じます。
『最終的に商品として安全性の高いものをつくりたい』という思いはありますが、使用者の目的や利便性、環境への負荷を考えた上での、全体のバランスがすごく重要だと思うんですね。なので場合によっては、私たちも合成界面活性剤を選ぶことがあります」