いつも、候補企業の中からファイナリストを選出する際は、喧々諤々の議論となる。結果的に今回は、教材メーカーのアーテックとステンレス表面処理のアベルという2つの八尾市の会社が残ったが、惜しくも選から漏れた中にも、未来を拓く大きな可能性を秘めた同市の会社があったのだ。
八尾市で何かが起こっている。スモール・ジャイアンツをめぐる激論の中で、そんな考えが、出席者の頭の中を少なからず過っていた。
その疑問に答えを与えてくれたのは、前回大会で「ローカルヒーロー賞」を受賞し、同じく八尾市に本社を構える木村石鹸工業の社長、木村祥一郎だった。8月22日に行われた「スモール・ジャイアンツ アワード」関西大会のトークセッションに登場した木村が、次のように「八尾の秘密」を明かしたのだ。
「市役所に変態な行政マンがいる。八尾にはいろいろ雑多な中小企業があるが、それを彼がまとめあげている。もう7年近くそういう仕事をやってくれているが、まさに彼がいることで、小さな種火が連結して大きくなっていく。八尾の中小企業は確実に元気になっている」
八尾市 経済環境部 産業政策課 係長 松尾泰貴
プライベートでネットワークづくり
その「変態な行政マン」が、八尾市経済環境部産業政策課係長の松尾泰貴だ。松尾は当日、関西大会の会場にも顔を見せていたが、この「スモール・ジャイアンツ」のプロジェクトには圧倒的な共感を寄せる。
「スモール・ジャイアンツという言葉には、めちゃくちゃ共鳴します。率直にうれしいです。八尾には小さな大企業がたくさんあります。まさにスモール・ジャイアンツのまちです。でも、そうした企業ってかなり個性的で、木村社長も含め、意外と地域でつながっていない一匹狼的な会社が多く、それをつなげるのが私の使命です。変態である私を通じて、地域のことを少しでも気にかけてもらう、真剣にまちのことを想ってもらう、そして、一緒に行動して、まちづくりにかかわってもらうことが私のミッションだと思っています」
八尾市は、大阪平野の中部、河内地方にあり、大阪市の東南部に隣接している。人口は26万人余り、市の東部は奈良県との府県境に接しており、生駒山系が背後に控えている。明治時代以降、綿糸生産で栄えたが、その後、木綿の生産が衰退すると、地場産業としてブラシや撚糸の製造業が盛んになる。
1955年以降は、中規模の会社の誘致を積極的に展開。95年のピーク時には、市内に製造業だけで4300もの事業所があった。現在は3300に減ってきてはいるが、どちらかというと事業者同士の繋がりは比較的薄く、それぞれが独立独歩で経営にあたっているケースが多かったという。