「正解がない」入試記述問題に強い子に育てるとき、『哲学』が効く理由

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永田:哲学というと構えてしまいがちですが、簡単にいうと発想のこと。哲学って定義しにくいじゃないですか。学術的にも唯一の定義というものはない。なので、僕なりにシンプルに言えば、要は「そもそも論」じゃないかと思います。「そもそも僕たちこんなことを考えたり、こんなふうに行動していたりしたけれど、そもそもそれってなんなの?」「意味はあるの?」「これって自分にとって良いことなのか」とか。「そもそも論」を深堀りしていって、意味がないとわかれば変えていく。そしてまた新しいものを作っていく。

阪原:日本人は「そもそも論」を嫌がる人が多いですよね。

永田:その最大の原因も学校や家庭での教育にあるのかなと思っています。

「京大の試験では、2日間かけて近代的思考様式について書かされた」


阪原:僕は全然勉強できなくて4年間浪人したんですよ。

永田:阪原さんの著書『直線は最短か?』にも書いてありましたね。

阪原:それで、ちょうど僕が受けた京都大学の経済学部の試験で、2日間かけて8時間以内に、という条件で小論文を課せられました。第1問が、文化人類学者レヴィ・ストロースが書いた『野生の思考』を読んで、近代的思考様式について自由に論を展開しろという問題。その次はイギリスの経済学の古典『人口論』の一節を読ませて論を展開する問題。これはいろいろな計算をしなければなりませんでした。最後に封建制について論じろ、という問題でした。

永田:フランスのバカロレア(高校卒業試験)みたいですね。

阪原:大学入試というのは、そのときの担当教員の考え方が反映されます。なので、出題した教授が毛色の違った学生を欲しかったのかもしれませんね。実際、その試験を通って入った学生には、自分の軸を持っている学生が多かった気がします。変わり者ともいえますが……。大学を途中でやめて絵描きになった友人とかもいますし。ただ、結局その担当教員がやめたことで、その入試はなくなったようです。

永田:採点する方も大変ですからね。

阪原:そうなんですよね。それをあえてコストをかけてやるということは、そのための社会インフラがあったのかもしれません。

永田:フランスは哲学の教員の数が多いから続けられているのかもしれません。
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文=阪原淳

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