第二波真っ只中のスウェーデンから 現地日本人医師による実態証言

2021年1月1日、スウェーデン、ストックホルムの街中。(Getty Images)


しかし、残念ながら、一日60人前後の死亡者を出している(図4)。

スウェーデンでは、死者数は死亡日でカウントされるため、至近約3週間のデータは確定ではなく、遅れて報告されるケースがある。人口10万人あたりの死亡者数は、近隣の北欧諸国に比べれば高いが、ロックダウンなど厳しい規制を繰り返してきた他のヨーロッパ諸国と比べれば高くない(図5、1月5日現在)。最も感染者の多いストックホルムではピークアウトしたようであるが、南スウェーデンやヨテボリ地区では感染拡大が続いている。

第一波と同様、ICUを擁する救急病院はコロナ入院治療を担当し、通常診療の一部は非コロナ治療病院へ委託するなどしている。通常ベッド数やICUベッド数は中央管理され、救急搬送を余裕のある病院に振り分けたり、入院中の患者も転院させるなど、医療資源を柔軟に運用している。現状のように地方自治体により感染拡大状況や医療資源のキャパシティーに差がある場合は、地方自治体の枠を超えて患者を陸路空路で搬送する。


図4

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図5:「人口10万人あたり死亡者数」

私の勤務するカロリンスカ大学病院では、第一波では、スウェーデンで最も被害の大きかったストックホルムにおける感染者の入院治療の40%を担い、ピーク時には500名近い感染者の入院患者を抱えた。病院のベッド数は約1600床であるから、ベッド数の3分の1近くが感染者であった。そのうち、ICU入院患者は約150名。ICUベッドを通常時の40床から増床し、最大200床程度までにキャパシテイーを拡大した。

ICU治療にあたるスタッフは、医師や看護師の配置換え、他の地方自体からの応援、医学部生のボランテイアが看護師として勤務するなどで増員した。ストックホルム県が緊急事態宣言をしたことにより、配置換えに応じたスタッフには220%の給与をインセンテイブとしてつけることができたし、緊急の超過勤務では最大250%の時間給とすることにより、より多くの勤務希望者を集めることができた。

ICU治療の必要のない中等症の患者は通常病棟に入院させるが、通常診療を縮小することにより通常病棟を新型コロナ病棟とすることで対応、治療に当たる医師としては、感染症科専門医ではなく各診療科の若手医師を配置し、感染症科専門医の指導の元に新型コロナ診療に当たった。新型コロナ診療にあたり、より多くの当直医が必要になったが、それら当直医を隣接するホテルに宿泊させた。

夏の終わりの「3つのシナリオ」は──


第二波の到来など感じさせないほど、穏やかだったスウェーデンの夏。新規陽性者が増加し始めても、当初はあまり危機感がなかったように思う。公衆衛生庁が夏の終わりに発表した今後の3つのシナリオでも、次の感染の波がこれほど大きくなると予測されていなかった。

シナリオ0(図6)は、第一波が収束してそのまま感染が低いレベルで継続するシナリオ、シナリオ1(図7)は秋に感染拡大するもののすぐに収束し、新年前後に感染拡大するもの、つまり、人が多く集まる時期に合わせて感染拡大するシナリオ、そして、シナリオ2(図8)は、第一波のあと、明らかなピークを迎えることなしに緩徐に感染が拡大するシナリオであった。

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図6:「シナリオ0」公衆衛生庁より。

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図7:「シナリオ1」公衆衛生庁より。

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図8:「シナリオ2」公衆衛生庁より。
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文=宮川絢子 編集=石井節子

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