経済・社会

2021.01.07 16:30

第二波真っ只中のスウェーデンから 現地日本人医師による実態証言


国王の「我々は失敗した」発言をめぐり──


スウェーデンでは毎年、クリスマスに合わせて、王室からのメッセージとして特別番組を作成する。その番組の中で、グスタフ国王が、「我々は失敗した」と発言する一コマがあり、その発言が切り取られ、「スウェーデンは失敗した」というニュースとなり、世界中を駆け巡った。この発言は、インタビュアーの「今年は何が一番ストレスでしたか。」という質問に対して、「我々は失敗した。多くの犠牲者を出した」に始まる回答の冒頭であった。それに引き続き、多くの国民が様々な形で、コロナ禍で辛い経験をしていることに心を痛めているという発言がなされた。

立憲君主制(象徴君主制)をとるスウェーデンでは、国王が政治的発言をしてはならないことが憲法で規定されている。従って、専門家の間からは国王の発言は憲法違反であるとの批判も出た。Hovet(宮内庁のような組織)が、「失敗したというのは政策に関することではないため、政治的発言とはいえない」と釈明する異例の事態となった。

もっとも、国王の失言や失態は今回に始まったことではないため、国民の多くは、あまり気にしていないようであり、国内での反応はそれほど強いものではなかったが、国外での反応は非常に大きなものとなった。国王の発言の直後に、マスク推奨を含めた規制強化が発表されたため、国王の発言が影響を与えたという誤報道もあった。

報道陣から「国王の発言についてのコメント」を求められたルベーン首相は、「高齢者を守ることに失敗したという意味だと理解している」と発言した。また、「パンデミック対策の可否は、より長期間に多くのパラメーターに関して検討する必要があり、現時点では失敗したかどうかは判断できない」とコメントした。

番組では、皇太子であるビクトリア王女夫妻、カール・フィリップ王子夫妻、マデレーン王女などが登場し、コロナ禍を過ごす国民へのメッセージが放映された。

ビクトリア王女夫妻は、第一波で、ストックホルム国際展示場に600床の野戦病院が軍によって作られている現場を訪れた。ダニエル王子は、「我々スウェーデン人はお互いを信頼し合っている。お互いを助け合っている。この危機を一緒に乗り越えなければならない。いや、一緒に乗り越えられるに違いない」とコメントした。

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ビクトリア王女夫妻。左がダニエル王子、右がビクトリア王女。(Getty Images)

フロリダに住むマデレーン王女は、「アメリカでは、学校が閉鎖されたために家庭で暴力を受ける子供達のセイフティーネットが無くなった。今年は例年よりずっと多くの子供たちが犠牲になっているだろうことを考えると、そのことを考えたくない」と話した。

カール・フィリップ王子の妻ソフィア妃は、第一波で、スカンジナビア航空で休職となった客室乗務員を医療従事者として教育するコースを受講し、ストックホルム市内の病院で、食事配膳やベッドメーキングなどの業務に従事したが、その様子が紹介されるなど、国民に寄り添うスウェーデン王室のメッセージビデオとなり、心の琴線に触れるものだっただけに、国王の発言の一部が切り取られ、プロパガンダ的に報道されることになったのは残念であった。


カール・フィリップ王子の妻ソフィア妃。ストックホルム市内の病院で、食事配膳やベッドメーキングなどの業務に従事した(写真:Svensk Dam)

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宮川絢子(みやかわあやこ)◎スウェーデン・カロリンスカ大学病院・泌尿器外科勤務。平成元年慶應義塾大学医学部卒業。日本泌尿器科学会専門医、スウェーデン泌尿器科専門医、医学博士、カロリンスカ大学およびケンブリッジ大学でポスドク。2007年スウェーデン移住。スウェーデン人の夫との間に男女の双子がいる。

文=宮川絢子 編集=石井節子

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