子どもが親元を離れたたことで、いまは「外に家族が広がっていく」ような感覚を持ち始めている。2019年6月からは、オフラインサロン「もぐら会」を主宰している。この活動が、紫原さんのいまの人生の大きな部分を占めているという。
80人ほどのメンバーがおり、1回につき15~20人が参加し、お話会では自分たちの近況や思いをシェアし合う。そこから派生して、勉強会を開いたり、エッセイの執筆をするコースもある。
「後ろめたさ」を感じなくてもいいように
参加者は、シングルマザーや学生時代に引きこもりを経験した人、新社会人で適応障害を発症した人など「ちょっと挫折したことがある人」が多いという。お話会では、その日の体調と最近の出来事を1人ずつ話していく。「相手の話に対して、リアクションをしない」のがルールだという。無理して「頑張ろう」などと声かけをするのではなく、聞きっぱなしにするのだ。
「ただ話をしたり、聞いたりしているうちに癒されたり、周りの人たちと心の連帯を感じたりしています。何らかの挫折をして、後ろめたさを抱えながら生きている人が多いですが、誰もが安心できる場所になればと思っています」
そもそもこのような活動を始めたきっかけは、雑誌のお悩み相談コーナーを担当してからだ。例えば30、40代の女性から「友達がいなくて寂しい」「友達がいるけど孤独」といった悩みが寄せられると、その回答について執筆するが、「それで救われているか分からない」と感じていた。さらに自分自身について「深く話す場」があれば、もっと主体的に気づきを得られるのではないか、と考えた。
「もぐら会」はオフラインのサロンだったが、コロナ禍にはオンライン開催も始まった。2021年には、もぐら会から書籍を出せるように準備中だ
ただ、この活動は「人のため」だけではなく、「自分のため」でもあるという。
「私自身、過去の自分をずっと助けたいという気持ちがありました。結婚生活がうまく行かず離婚し、孤独で、周りの人が信じられなくなっていた自分を。結婚している時は家庭が盤石だったから、特に社会との繋がりを求めていませんでした。でも、家庭が脆弱になってから、突然社会が冷たいものに思えたんです。離婚にしても、その人たちの中に『責任』があると思われがち。自分はこの世界にいてはいけないという感覚に陥っていました。だからこそ、いろんな人がそこにいていいよ、というメッセージを自分自身が欲しかったのかもしれません」
執筆活動だけでなく「もぐら会」においても、周りの人たちに伝えたいことは同じ。「どう生きたって後ろめたいことはない」ということだ。
いま結婚生活を振り返ると、こんな風に思う。
「一人の人との関係性を強固に築いた経験は、自分を見つめる時間でもありました。喧嘩をするにしても、自分のせいか、相手のせいかというせめぎ合いなんですよね。禅問答の修行みたいで、自己理解に繋がりました。結局、発酵して、最後は腐ってドロドロになるくらいまで悩みましたし。でもあの時、一生懸命向き合おうとしてよかったと思います」
そんな紫原さんは、最近になってやめたことがあるという。
「社会人ごっこをやめました。私は31歳で遅い社会人デビューをして、周りに引け目を感じてきましたが、最近はちゃんとした社会人や、大人ぶるのをやめています。例えば、病気をしてまで仕事をこなさなくてもいい。できないことは、能力が低いからではありません。大人であっても、忘れ物もするし(笑)、社会人として完璧じゃなくてもいいんだと気づきましたね」
コロナ禍では、世の中の動きがスローダウンして自分自身を見つめ直したという人も多いだろう。そんな中、紫原さんは「忙しい社会のあり方を見直した」という。「社会の進む速度が遅くなったからこそ、自分の生活に必要なことに気づけたと思います。あらゆる人を包み込むインクルーシブな社会になればいいなと、より感じています」