クラウド録画サービスを展開する起業家が見据えるのは、「映像から未来をつくる」というビジョンの実現。クラウドカメラの目と、AIによる解析という目で見ることで、新たな発想と選択肢が生まれる。
「最後にこの映像を見てほしいんですよ」と取材が終わりに近づいたとき、セーフィー代表取締役社長の佐渡島隆平から提案があった。PC上に映っているのは、英国BBC放送の番組だ。
「社会的な意義が出てきているんですよ。カメラの目は」と話しながら見せてくれたのは、ダイヤモンド・プリンセス号で新型コロナウイルス(COVID-19)に感染した重篤患者の受け入れを行った、聖マリアンナ医科大学病院の映像だ。画面には、救命救急ユニットの緊迫した模様が映し出されている。
2週間前までは、集中治療室(ICU)専用のナースステーションだった一室では、医師、看護師ら大勢が深刻な面持ちで、急きょ導入された大型のテレビモニターやコンピュータを眺めている。十数人の重症患者の様子やバイタルサイン(生体情報)を見るためだ。
高度治療室に多くのスタッフを送らないように、一人ひとりの容態や人工呼吸器などの状態を遠隔でカメラを通して観察する。医療従事者への2次感染を抑えながら構築した新たな治療体制についてのリポートだ。
この緊急時の院内システムに一役買ったのが、2014年創業のスタートアップ、セーフィーのクラウド録画サービスだ。セーフィーが提供するカメラに電源をつなげ、簡単な初期設定をするだけで、Wi-Fi経由で、PCやスマホで確認できる監視システムが完成する。録画用サーバーの設置やセキュリティ対策は不要という、誰でもいつでも簡単に安く導入できるという手軽さが評価されるサービスだ。
「監視カメラをクラウドで管理する」──と仰々しい言葉で形容されることも多いが、佐渡島は次のように話す。
「本当によく『監視社会をつくるのですか』と聞かれます(笑)。もちろん違いますよ。僕らが実現したいのは、映像を通して『みんなの意思決定の役に立つこと』。人間がもつ目だけで見ることを前提とした社会構造から、カメラの映像、その映像データを解析するAI(人工知能)をはじめとした『第3の目』『第4の目』からも見ることを前提とした構造に変われば、自分たちの意思決定がより楽に、よりよいものなっていきますから」
現在、聖マリアンナ医科大学病院がある神奈川県では、COVID-19軽症者、無症状者の受け入れを民間宿泊施設で始めている。その施設でも、セーフィーのカメラは活用されている。
入り口にカメラを設置することで、救急搬送する救急車の受付対応をスムーズにする。また、非接触で提供された患者への食事や薬について、受け取りやしっかり食事をしているかなどの確認にも使用するなど、映像前提の新しいシステムづくりの基盤となっている。文字通り、コロナ禍での「新常態(ニューノーマル)」を支える存在になった。