NHKでは「名字」をテーマとした「ネーミングバラエティー 日本人のおなまえっ!」が、2017年の初回放映時に視聴率10%を超え、今は毎週木曜のレギュラー番組として高視聴率を記録しているようだ。
近年、「名字」は確かに日本特有の関心ごととして人々の興味関心を集めている。これだけ多くの情報が可視化されてきた時代において、なぜ日本人は「名字」に惹かれるのだろうか?
姓、名字、苗字、氏の違い
まず最初に、「名字」とは一体何なのか、というところに触れておきたい。
これまで、「姓」「名字」「苗字」「氏」と、同じ意味を持つのに異なる固有名詞があるのはなぜなのか、疑問に思ったことはないだろうか?
「姓」はもともと、天皇から与えられる世襲官職の名称であり、公式的なものとして使用されていた。これには「官職」と「地名」の2種類があり、現在も名字として残る菅原や小野は地名である。一方で「名字」は私的なものであり、よって、一定以上の地位の人は姓と名字の両方を所有していた。
「名字」と「苗字」の違いだが、言葉としては名字の方が古く、地域や所有地に由来する家の名前のことをいう。苗字の「苗」には「子孫」という意味があり、血族や血統に由来する家の名前のことをいう。そのため、名字と苗字どちらが正式ということはなく、どちらを使用しても問題はない。「氏」は、近代以降の法律用語である。
「〇〇村の〇兵衛」さんに名字はなかったのか
学校の授業で「江戸時代、武士以外の人に名字はなかった」と習った人が多いのではないかと思う。明治時代に入って、突然政府から名字をつけるよう言われたため、農民たちは慌てて村のお坊さんに頼んで適当につけてもらったとか、野菜の名前を名字にした、といった話を聞いたことがある人もいるだろう。
江戸時代、東海道の城下町の風景画(Getty Images)
これらは、明確な誤りである。実際には、江戸時代、武士以外の人は「名字を持ってはいたが、公式に名乗ることはできなかった」というのが正しい。
そもそも武士というのは、平安時代の終わり頃から、自分の土地を守るために農民が武装したのが始まりだ。つまり、武士と農民はもともと同じであり、武士に先祖代々受け継ぐ名字があるならば、当然農民にも代々継がれる名字があったということになる。