トップ10圏外の「山田」のヒミツ
ランキングトップ10には入らずとも、日本人にとって非常に馴染みのある名字といえば「山田」だろう。12位ではあるものの日本の代表的な名字というイメージがあるのは、山田は全国分布の偏りがなく、普遍的な名字であることがその理由であると考えられている。
また、「山のなかの田」という、日本人の心のふるさととも言える光景を想起させる名字であることもまた、多くの日本人が親しみを感じる理由であるに違いない。
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「さいとう」という名字には、大きく分けて「斎藤」(「さいとう」の中ではランキングトップの19位)「斉藤」「齋藤」「齊藤」と4つある。この「さい」の違いは、本来の「齋藤」だったものを省略して「斎藤」にする過程で、つい省略しすぎて「齊藤」や「斉藤」といった別の漢字を使用し始めたことが由縁だ。驚くことに、この「さい」の漢字は現在、分かっているだけで85種類もあるという。
「あずま」と「ひがし」、なぜ読み方が違うのか?
名字の「読み方」に注目してみると、東日本は濁音が多く、西日本は清音が多い。「山崎」という名字一つでも、「やまざき」なら東日本、「やまさき」なら西日本と、どう読むかでルーツとなる場所を大体知ることができる。
「東」という名字は、「あずま」なら東日本、「ひがし」なら西日本にルーツを持つ可能性が高い。これは、中国から漢字が伝わったときの読みが「あずま」で、その前から方角の東を「ひがし」と言っていた西日本では、名字もそのままそう読んだことで読み方に違いが生まれた。
日本の姓氏史研究の第一人者である、森岡浩氏は言う。「日本人の名字には、実にたくさんの種類があります。そのため、メジャーでない名字の人は『自分の名字にはなにか独特のいわれがあるのでは?』と思い、興味を持つのでしょう。実際に、メジャーな名字の人は名字に興味のないことが多いです。
また、名字は自分の名前の一部であるにもかかわらず、その由来についてはほとんどの人が、両親からも学校の先生からも教えてもらったことがありません。
日本人が『名字』にまつわるうんちくやストーリーが好きなのは、誰も教えてくれない、ほとんどの人が無知なものであるが、その由来には歴史や地名、地形、職業など実に様々な要素が取り入れられている、ということに興味を惹かれるからだと思います」
どの名字にも、「先祖がどこでどのような暮らしをしてきたのか」という情報が込められており、またそれはアイデンティティを探る一つのきっかけともなる。
その込められた意味が本当にわからなくなってしまう前に、自分や身近な人の名字について、いま一度調べてみてはいかがだろうか。
参考文献:『日本人のおなまえっ! 1』『日本人のおなまえっ! 2』(ともに集英社インターナショナル、NHK「日本人のおなまえっ!」制作班 編集、森岡浩監修)、『名字でわかる あなたのルーツ:佐藤、鈴木、高橋、田中、渡辺のヒミツ 』(小学館、森岡浩著)、『ルーツがわかる名字の事典』(大月書店、森岡浩著)。