ビジネス

2020.09.18

不確実な未来予測より、「あるべき姿」のアップデートを

(C)IDEO


街並みやプロダクト、サービス、さらには組織や社会のルールや常識は、全てその時代や文化の中で暮らす人々やつくり手の美意識を汲んでデザインされる。

IDEOの創設者の一人でもあるデザイナー、ビル・モグリッジは「ほとんどの人たちは、我々の周りにある大抵のものは必ず誰かがデザインしたものだということに気付いていない……世の中のものは、我々にもそのあり方をコントロールすることができるということを、私は伝えたい」という言葉を残している。これを前提とすると、私達の美意識が良い方向にアップデートされることは、これからの組織、社会のあるべき姿を形作っていく上で、不可欠ではないだろうか。

「人間中心デザイン」を軸にする我々IDEOも、その変化をIDEOらしい目線で捉えた上で、人々の対話と共創の機会をつくっていきたいと考えている。そのファーストアクションとして、先日「Emergent Futures〜新たな未来の兆し」というドキュメントを公開した。



IDEO Tokyoのメンバーたちが目の当たりにしてきたコロナ後の社会や人々の行動変容の兆しを元に、どのような機会や可能性が生まれ得るかを考え、対話を促すものだ。私達に今必要なのは、不確実な未来を予測することよりも、前向きで良質な創出/創作作業であると考える。

ビジネスの美意識の変化


ちなみに海外のビジネススクールを見ると、ビジネスにおける美意識とも言える「倫理観」の授業は、15年ほど前から必修となっているところが多い。

主にエンロン事件(2001年に発覚した巨額の粉飾決算事件)が一端となった変化だが、その後もリーマンショック等、歴史に句読点が打たれる度に、ビジネスの美意識はアップデートされてきた。エンロンでは企業や経営者の倫理観、ガバナンスの強化や組織の透明性が見直された。

リーマンショック後は、拝金主義とも言われた無尽蔵な利益追求や報酬制度等も「醜いもの」という意識が強まった。昨今では企業のCSV/CSRといった社会責任が進化し、業界構造自体を見直すような循環型経済(IDEOではサーキュラー・デザインと呼ぶ)等を「ビジネスがあるべき姿」の基準とし始めている。業界を問わず、新たな美意識に基づいた新しい社会・経済の仕組みを共にデザインする方向にシフトしているのだ。

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文=野々村健一(IDEO Tokyo エグゼクティブ・ディレクター)

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