AIに期待するのは未来ではなく「最適な答え」を提示してくれること

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GRIDの予測・最適化AIは、現実世界をデジタル上に再現したシミュレータ(=デジタルツイン)と連動し強化される。大まかに説明するならば、現実をコピーしたサイバー空間で何度もプランを実行・検証しつつ、そこから得られた最適解を人間に提示するという仕組みだ。そのシミュレータを構築する方法というのも興味深い。物理・空間・時間・法律などのさまざまな条件や制約だけでなく、熟練スタッフが持つ知識やノウハウまでも取り込むのだという。

「配船計画を例に取るならば、『冬場の日本海は波が荒れるため船の大きさはどのくらいがよいか』『ある港の入口の向きの方角と波の流れの関係』『一定サイズの船の燃料を補給するためにどこの停泊地が適切か』『Aという石油とBという石油は横にならべてはならない』など、熟練した人間の担当者が計画を立案する際に念頭に置くべきビジネスルールや経験が山ほどあります。我々はそれを精密かつマニアックな配船ゲームのようにひとつひとつプログラミングしてシミュレータを構築し、AIと組み合わせることでソリューションを生み出しています」(曽我部氏)

製造業の現場では、設備やその稼働状況をサイバー空間上に再現し管理を効率化するデジタルツイン技術が注目を集めて久しい。自動運転を制御するAIの学習においても同様に期待が高まっている。

ただエネルギーや物流、サプライチェーンなどインフラ分野において、高度なデジタルツイン×予測・最適化AI技術が実現していくことは、それらとまた違う意味を持つことになるはずである。一部企業だけでなく、社会で暮らす多くの人々が“最適解”の恩恵やメリットを享受できるようになるからだ。コロナ禍の渦中においては、先行きが不透明な社会が安定を保つための“転ばぬ先の杖”にもなりえるかもしれない。人工知能が迎えようとしている、新たな発展のフェーズに期待したい。

連載:AI通信「こんなとこにも人工知能」
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文=河 鐘基

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