新型コロナという苦境に直面したいま、世のリーダーたちはどうすべきか。ビルによると、まさに苦境のときこそリーダーの真価が問われるという。同書の一部より、こういうとき、リーダーはどんな振る舞いをすべきかがよくわかるエピソードを、「ダイヤモンド・オンライン」からの転載で紹介する。
リーダーは先陣に立て
ダン・ローゼンスワイグは2010年にCEOとしてチェグ社に加わったとき、あと6カ月でIPOと聞いていたが、実状はあと3カ月で破産だった。
『1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』(ダイヤモンド社)
彼は経営を立て直し、2013年にIPOを成功させたが、その直後に株価が下落し、公開価格を大きく下回った。何年ものつらい日々に疲れ果てたダンは、自信が持てなくなった。この会社は大丈夫なのか? 自分がリーダーでいいのか? 彼は誰にも言わずに辞任を考えはじめた。そんなとき、ダンを数年前からコーチし、チェグの浮き沈みを乗り越えるのを助けてきたビルから電話があった。
「ダンか」と彼は言った。「散歩しよう」
「いまから? そっちへ行こうか?」
「いや、このまま電話でバーチャル散歩をしよう」
なんだそれは、とダンは思った。そして机の上のフットボールのミニヘルメットと窓の下の中庭の噴水をぼんやり見つめながら聞いた。
「どこへ行く?」
「仕置き小屋だ」とビルは答えた。
そしてビルは、チェグで踏ん張れとダンを諭した。リーダーが先陣に立たなくてどうする。迷っている暇はない、本気でやるんだ。失敗するのはいいが、中途半端はダメだ。君が本気で取り組まなかったら、誰が本気を出すというのか。やる以上は全力でやれ。
「僕が辞任を考えていたことを、なぜビルが知っていたのかはわからない」とダンは言う。「でもちゃんと知っていた。そして彼はそれを許さなかった」
ダンは会社を辞めなかった。先陣に立った。まだきちんと機能していたチームを鼓舞し、力を合わせて立て直しを図ったのだ。