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2020.07.30

女性執行役員1%の日本の現実 ジェンダー不平等解消は可能か

Photo by kevin liang on Unsplash

女の子はニコッと笑って大人しく───。これを、そうあるべきと書こうものなら確実に炎上する時代。今や、時代の空気はそうなっている。ただ、空気だけだとも言える。職場における男女の機会・賃金・昇進の差を見ればそれは明らかだ。

資産運用会社アクサ・インベストメント・マネージャーズ(以下、アクサIM)でESGアナリストを務める、マリー・フロマジェの言葉を借りれば、「職場における男女の不平等を見る時、それは生まれた時からの文化的背景に要因がある」と言う。出生児の性別は未だ多くの国で男子が歓迎され、進学の平等はあるにせよ、その後の就業機会から以降、多くの要素でジャンダーギャップはつきまとう。

フロマジェは、7月初頭、アクサIMのレポートとして「職業人生におけるジェンダーの不平等:投資家にできることは(英文)」を発信。日本、ドイツ、中国、そしてインドの4カ国の調査をもとに、2020年以降の日本と世界が抱えるジェンダーギャップの現実に問題を提起した。この若きアナリストは、驚くほど広い視野でこの問題に向き合っている。

日本の虚実


日本は2018年可決された働き方改革関連法をはじめ、その前後で労働環境や育休など、政府と企業の連携による労働環境の改善に注力してきた。先進国の中でも突出した最長「52週」という夫の育休制度、経産省での女性幹部登用を積極的に行う企業(実際は外国人労働者など項目は複数ある)を表彰する試みもある。フロマジェは言う。

インタビューに答えるマリー
マリー・フロマジェ(Marie Fromaget)|Human Capital and Diversity Analyst, AXA IM 2018年にESGの中でも人的資本と多様性に焦点を当てたアナリストとして入社。パリ大学ドフィネ大学でエネルギー、ファイナンス、カーボンの修士号を、国際経済学とファイナンスの博士号を取得。

「ジェンダーギャップを埋めるのは、課題のチェックボックスの一つではありません。文化そのものを変えるということなのです」

ドイツ・日本・中国・インドの4カ国を調査したマリーのレポートによると、日本の努力は数字に現れていない。重要だと理解しているから制度設計をするのに、実際52週の育休を取る社員がどれだけいるかと皮肉を言いたくなる。


出典:ILO、E&Y、世界経済フォーラム、世界銀行データベース、OECD、MSCI、ブルームバーグ・アナリシス 表:アクサIMレポート「職業人生におけるジェンダーの不平等: 投資家にできることは」より抜粋

日本の現状をフロマジェはこう説明する。

「日本では高齢化が喫緊の課題で、女性の人材活用が将来の事業継続、人材のプールに関わる事実を命題として受け止める必要があります。2040年には65歳以上が国民の40%に達する予測のなか、当然、人材不足が起きる。その過程で優秀な人を活用しようとすれば女性の力をどう生かしていくかが、ビジネスコンティニュイティ、イノベーション、競争力の確保でも重要なことなのです。だから今の段階で、ダイバーシティやインクルージョンで備えなければならない。そして女性の人材活用のための支援策、フレキシブルな労働時間やメンタリングシステムなどの備えをしているところが、力を発揮できる企業になるのです」

想像力不足


日本企業は、女性登用を増やせばどういう成果が期待できるのかを想像できているだろうか。具体的な貢献を予測でき、働き方などの必要な施策がとられていれば、執行役員の女性比率が上図のように1%という数字にはならないだろう。

「日本企業に話を聞くと問題の重要性を理解しています。ただやはり簡単ではないですね。もたらされる恩恵に対してはさまざまなリサーチが各所から出ていて、ダイバーシティを実践して、特にシニアマネジメント、役員レベルで、多様な背景の人を活用したほうが財務成績、収益性がいいなどそれは常識となっています。単に女性だけでなくダイバーシティの実践によって異なった視点からイノベーションが生まれるのです」

建設業界など女性が入りにくい業界もあり、うちの会社は同じように測れない──、の気持ちは分かるがそれは言い訳と取られるだろう。単に数ではないのだ。

「Aという会社で女性が3割を占め、マネジメントレベルでも3割であるとすれば、男女で昇進する環境・機会・文化があるんだなとわかるのです。Bという会社は、女性が5割でもマネジメントレベルで2割となるなら、昇進率が悪い。つまりその会社の社風、昇進のサポートが十分でないということになるのです。全体の数ではなく、すべてのレイヤーで同じような比率が実現されているかどうかが重要な点です」
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文=坂元耕二

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