経済・社会

2020.07.27 07:30

オードリー・タンが語る「欠陥は、あなたが貢献するための招待状」

オードリー・タン 台湾デジタル担当政策委員(photograph by Kaii Chiang, styling: Joyce Chang, co-ordinator: Amber Cheng, Lydia Lu, make up: PT Ho, hairstyle: Hyde Lin)


政治に実装した「対話のメソッド」


vTaiwanは質の高い審議によって大きなグループを導くプロセスであり「対話を重視するメソッド」だ。実際にこれを使ってライドシェアリング(Uber)規制に関する議論が行われ、採用された。
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まず、オンラインディベートの空間に参加した人々は、いくつかのコメントに投票を促される。「Uberは禁止すべきだ」「厳しく規制されるべきだ」といったものから「市場に任せるべきだ」や「Uberはフレキシブルな仕事を生むことができるビジネスモデルだ」といったコメントなどだ。

数日経つと、大まかに反対派と賛成派の相関図が可視化される。そして、不思議なことが起こる。多くのサポーターを得たいと思ったメンバーは、乗客の安全や保険といった多くの人が賛同するコメントを投稿し始めるのだ。

その後、徐々に意見は洗練され、投票が蓄積されていき、最終的には「政府は特定の利益集団の保護ではなく公正な運輸制度を考えるべき」や「Uberには台湾市民が納得可能な納税方法を示す責任がある」といった大多数の人によって受け入れ可能なコメントに集約されていくのだ。
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g0vが主体の「vTaiwan」のオンラインディベート空間。オードリー・タンも開発に携わった。どこに分断があり、どこにコンセンサスがあるかを明示する投票MAP。コメントしている人の顔が見え、投じられるのは「賛成」「反対」のみで、対立や批判を誘発する「返信ボタン」がないことも、実装成功の重要な要素だと、タンは解説する

その後これらのアジェンダを元に、タクシー協会やUber、専門家といったステークホルダーと、実際に対面で討論会を行い、その様子をライブストリーミングで公開する。実際に、この時はタンがそのファシリテーターの役を担った。

「オンラインでは、話し合うアジェンダを大まかに設定し、実際の議論は常に対面で行います。その対話は、インターネットで生配信されます。アジェンダを設定する力があること、ライブストリーミングを通じて議論を発展させられることが、多くのステークホルダーとの協議の鍵になります。コメントをオンラインに残しただけで何の影響もない場合、誰も真剣に時間を費やしませんよね」

2016年1月、総統選挙で国民党は破れ、民進党の蔡英文が総統となった。ジャクリン・ツァイは退任し、新政権は新しいデジタル大臣を探し、タンに人選のアドバイスを求めていたが、結局、彼女がそのまま繰り上げて就任することになった。

24年前の出会い


1996年、タンは15歳のとき、ワールドワイドウェブの世界を選んだ。当時の教科書が時代遅れであると気づき、教師に「学校を辞めて、ワールドワイドウェブで学びたい」と申し出た。驚くことに、義務教育にもかかわらず、教師はそれを認めた。

インターネット・ソサエティと呼ばれるコミュニティを発見し、彼女はそこでガバナンスに関する奇妙な考え方を知ることになる。それは“大まかなコンセンサス、徹底的な透明性、誰もが参加できるオープン・マルチ・ステークホルダー・システム”というものだった。
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文=岩坪文子

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