彼らは異業種だからこそ気がつく視点で共同しマニュアルを作り、何度も接客トレーニングを行いました。飲食の従事者はお茶の演出やお茶菓子の開発も担当。
嬉野出身のデザイナーにロゴやパンフレットを作ってもらい、WEBページもITや広報に強い人が立ち上げました。こうして実費以外は、すべて彼らの手弁当で「嬉野茶時」が完成しました。
美しいワイングラスに注がれた嬉野茶(C)嬉野茶時
通常の3倍する値段のお茶に市民が詰めかけ、SNSで拡散
「嬉野茶時」で提供した商品は、800円の嬉野茶と1200円のスイーツセットでした。市内のイベントで、お茶は100円から300円程度で販売されるので3倍も高い価格です。
その価格でイケる!という旅館の経営者に対して、茶農家さんは「そんなに高く売れるわけがない」「こんなに高くてはお客様に申し訳ないし、そもそも誰もこない」と反論。値付けは相当もめたそうです。
しかし、市民にとって法外に思える価格のイベントだったにも関わらず、11時から18時までの営業時間は常に満席でした。
中には、翌日に家族や知人を連れてきたリピータもいたそうです。値段に対するクレームはゼロ、高いという人は誰一人いなかったそうです。
この成功の要因を主催者は3つあるといいます。
一つは、生産者自らが自分の作ったお茶を自分でお客様にお出しするという付加価値があったこと。たしかに生産者は自分の商品に関することなら、だれよりも答えられます。
二つ目は空間の設え。センスのよい旅館のラウンジは、自宅や市内にあるカフェとは一線を画すスタイリッシュで洗練されたものでした。
三つ目はお茶の演出です。通常であれば、お茶は陶器や磁器の茶碗でだされます。
ところが、ここでは、薄くて繊細なガラスでできたリーデルのワイングラス。お茶農家さんは、茶器を使って丁寧にお茶を入れ、お客様の目の前で特別感たっぷりにそそぎます。高級フレンチで熟練のソムリエが香り高いワインを注ぐ、まさにあのシーンそのままでした。
ここでのポイントは、都会のスタイルを地方の嬉野にもってきたことです。お客様はお茶を飲んではいますが、提供している商品は、お茶ではなく、非日常の体験だったのです。