コロナが追い打ちをかけた地域経済は、ここからが勝負
嬉野を支える産業はいずれも厳しい状況で、これに追い打ちをかけたのが今回の新型コロナでした。
市内のある旅館の4月の売り上げは通常の1割程度。コロナ収束が1年後とも2年後とも言われている中、給付金や補助金だけでは到底まかないきれない状態です。
焼き物も大変です。先日の夜中、ある老舗窯元の社長から電話があり「焼き物の発注がまったくない。もともと経営状況がよくない企業は内部留保もなく、このままだと2割くらいの企業が倒産するのではないか」と危機感を募らせていました。
お茶も旅館やレストランなどの業務需要やイベントがなくなったことで売り上げは激減。生産調整や独自の支援策を講じてなんとか産業を維持しようと苦戦しています。
伝統工芸に詳しい「和える」の調査によれば、このままいけば年内に約4割の伝統産業に関わる企業が倒産する可能性を指摘しており、伝統が途絶える恐れがあるとしています。
しかし、地域の産業、とくに伝統的な産業には新興事業にはないストーリーがあります。創業100年以上などの老舗であれば、ひとまず経営状況の良し悪しは棚置きしても、人に語れるような歴史と伝統があるのですから。これからの消費は、ストーリーのあるなしが重要になります。伝統的なものは観光や地域経済にとって欠かせないコンテンツといってもよいでしょう。
創業250年以上の窯元に伝わる型を使った皿。世の中が右肩上がりになるようにとの願いが込められている(C)梶謙製磁社
お茶 x 焼き物 x 温泉で座組み。その中心は「サービス業」である温泉旅館。
「嬉野茶時」は一見すると普通のイベントに見えるかもしれませんが、その座組みがユニークです。お茶を淹れてお客様にお出しするサービススタッフは、そのお茶を作った茶農家さんたち。
彼らは、いつもの作業着ではなく、真っ白なサロンエプロンをしめ、スタイリッシュな出で立ちに変身。「いらっしゃいませ」と言った後で45度のお辞儀をするなどの正当な接客サービスをしていました。
普段は作業着を着ている茶農家さんたち(C)嬉野茶時
イベントの主幹は、組織マネージメントや企画力、それに都会的なセンスがある温泉旅館の経営者たち、というチーム編成です。
サービス業で重要になるのは接客スキルです。茶農家さんや焼き物職人さんは、通常、商社相手に仕事をしており、個人のお客様を相手にすることはありません。
業界知識のない個人客に商品の魅力を伝えるためには、相手の立場になってコミュニケーションをしなければなりませんが、接客の経験や教育がなければ、うまくできないものです。初めてアルバイトをした時、「いらっしゃいませ」という挨拶がなかなか言えなかった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ひたすら技を磨いて生きてきた40~50歳代の職人さんにとって、接客は簡単ではないのです。そのトレーニングをしたのがサービス業のプロである地元の温泉旅館や近隣で飲食業を営む人たちでした。