NY愛に溢れたウディ・アレンの新作が米国で上映されない理由 「レイニー・デイ・イン・ニューヨーク」 


アメリカではいまだに上映されず


「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」でも、主人公のギャツビーは、他のニューヨークを舞台にした作品と同様に、アレン監督の分身だ。ギャツビーがこの街で訪れる場所は、カーライルのバーを始めとして、まさにアレン自身の日常での足跡を反映しているかのようだ。

ただ、これまで「アニー・ホール」や「マンハッタン」や「カフェ・ソサエティ」などのニューヨークを舞台にした作品では、想いの叶わぬラブストーリーが語られていたのだが、この作品ではやや趣を異にしている。ネタバレになるので、詳しくは述べないが、その結末には、80歳を超えたアレン自身が、最終的に選択した決意のようなものが表れているようにも思える。その意味においても、この作品もまた彼の私小説なのだ。

実は、驚くことにこの「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」という作品は、アメリカではいまだ公開には至っていない。

それは、2017年に起きた映画プロデューサーであるハーヴェィ・ワインスタインのセクシャルハラスメント騒動に端を発する#MeToo運動のなかで、ウディ・アレンに対しても、彼の過去の幼女への性的虐待容疑(証拠不十分で不起訴)が、再び問題とされたからだ。

まず、女優のグリフィン・ニューマンは、この作品に出演したことを後悔していると発信し、今後はウディ・アレンとは仕事をしないと宣言した。これに続き、ティモシー・シャラメやセリーナ・ゴメス、エル・ファニングなどの主要な出演者も、出演料をセクシャルハラスメントの被害者を支援する運動に寄付したのだ。

これらの動きを受けて、そもそもの製作者であったアマゾン・スタジオがアメリカでの上映を中止する決定をした。その結果、2017年に撮影されたこの作品は、2019年7月になって、ようやくポーランドで最初の上映が始まり、以降、フランスやスペインなどのヨーロッパでは公開されることになる。

アレン側は契約不履行でアマゾン・スタジオを訴えたが、アメリカでの上映は依然として実現していない。これほどニューヨークへのオマージュとアレンの新たな決意が盛り込まれた作品であるのに、本国では上映されないのは、作品にとっては不幸としか思えない。監督本人と作品は別だと考えているので、とにかく残念だ。

数年前、アレン監督はあるインタビューに答えて、あと10本くらいは映画にしたい物語があると語っていたが、今年で85歳を迎える彼の新作が、これからも製作されることを心から願いたい。

連載:シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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