期待の新人監督は、なぜ19世紀の小説「若草物語」を映画化したのか

映画「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」

映画「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」

邦題では「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」と長いタイトルが付けられている作品だが、もともとの原題は「Little Women」。原作であるルイーザ・メイ・オルコットが1868年に発表した小説「Little Women」に由来するものだが、日本では戦前からこの作品には「若草物語」という題名が付けられていた。

初めて日本でこのオルコットの小説が刊行されたのは、1906年のこと。タイトルは「小婦人」で、これはもう直訳に近かった。「若草物語」という題名で刊行されるのは1934年で、小説家である矢田津世子の訳によるものだ。

実は、直後に日本ではキャサリン・ヘップバーン主演の映画「若草物語」が封切られており、小説の刊行はこの公開をきっかけにしたものだったと言われている。つまり、小説「若草物語」は、同名の映画にタイトルを合わせたものだったのだ。

映画の日本語監修を手掛けたのが、吉屋信子。そこで、このキャッチーなタイトルを考えたのは、彼女ではないかと言われている。日本の少女小説家の始祖とも言われる吉屋なら、この叙情さえ感じさせるネーミングは、じゅうぶん首肯できるものではないだろうか。

というような経緯もあり、本年度のアカデミー賞で作品賞や脚色賞他6部門にノミネートされたグレタ・ガーウィグ監督の「Little Women」も、邦題には「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」と、めでたく「若草物語」が取り入れられている。

子供の頃から何度も読んできた


海外映画の邦題については、日本の配給会社が割合フリーハンドで決められるものらしく、やや内容から外れた、売らんかなでのミスリードなものも多い。そのなかにあって、ひさしぶりに悪くはない邦題だと思ったのが、この作品だ。

少しタイトルとしては長い気もするが、内容をよく言い当てており、よくぞ配給会社は勇気を出して、この一読では覚えられない邦題を堂々と付けたものだなと感心している。

原作となったオルコットの「若草物語」は、少年少女世界文学全集には必ず収録されている名作なので、若い頃に読んだという人も多いかもしれない。19世紀後半のアメリカのニューイングランドを舞台に、マーチ家の四姉妹の物語が展開されていく。


マーチ家の四姉妹、左から長女メグ(エマ・ワトソン)、次女ジョー(シアーシャ・ローナン)、四女エイミー(フローレンス・ピュー)、三女ベス(エリザ・スカンレン)

美しく信仰も厚い長女メグ、男勝りで作家志望の次女ジョー、内気で音楽好きな三女ベス、おしゃまで絵の才能がある四女エイミー。父親は南北戦争の従軍牧師として出征しており、家族は優しい母親と四姉妹で暮らしている。女性読者ならば、この四姉妹の誰かに自分を仮託して、この物語を読んだ経験もあるのではないだろうか。
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文=稲垣伸寿

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